F1メカ解説|2024年、多くのチームがバランスに苦しむのは決して偶然じゃない……複雑すぎる”グラウンド・エフェクト”。苦悩は来年まで続くはず
2024年シーズンは、多くのF1チームがアップデートに失敗し、パフォーマンス向上の足枷となった……そういう事例が目立っている。それらには、共通するテーマがひとつ存在する。車体のバランスの問題に悩まされたということだ。 【動画】20年でF1マシンはどれだけ変わった? レッドブル、2005年RB1と2024年RB20を雨のシルバーストンで走行比較 最近ではマックス・フェルスタッペンが今季のレッドブルのF1マシン”RB20”が「モンスターに変わってしまった」と不満を漏らした。またフェラーリはアップデートを投入したことで高速域でバウンシングに悩まされることとなり、メルセデスも特に予選でナーバスなマシンの挙動に苦しんだ。またアストンマーティンも、昨年の躍進から打って変わって、今季は開幕から苦戦している。 いずれのチームも、アップデートを投入したことでダウンフォースは増加したものの、ハンドリングのフィーリングが悪くなるという副作用を伴うという、ほぼ同じシナリオを経験してきた。 多くのチームが同じ問題に苦労したのは、決して偶然ではない。いずれも、現行のグラウンド・エフェクトカーに内在する技術的な課題が、徐々に明らかになってきたということに起因しているとみられる。 その中心にあるのは、ふたつの性能要因がハンドリングを左右するということだ。ひとつは速度変化によってダウンフォースの発生量が変わり、路面と車体の距離も変わるということ。そしてサーキットを1周走るうちに、タイヤの温度が刻々と変わるということだ。 これらの要素はいずれも動的であり、チームが完璧な解決策を見つけるのはほぼ不可能。最悪ではない、妥協点を追求することを余儀なくされている。 これらのことは、以前から指摘されてきた。メルセデスのテクニカルディレクターであるジェームス・アリソンは昨年末、現在のマシンでダウンフォースを発生させる時の苦労について打ち明けた。 「現在のルールには、マシンの車高が下がれば下がるほどダウンフォースが大きくなるという、根本的な難しさがある」 そうアリソンは語った。 「それは無制限ではない。ストレートエンドで車体が路面に磁石のようにくっつくというのは、望ましくない。なぜなら、ストレートエンドでコーナーを曲がるわけじゃないからね」 「もしそこが最大のダウンフォースを生み出す場所であるならば、それは単に空気抵抗を生み出すだけだ。だから、ストレートエンドで生じる負荷に対処するためには、スプリングを硬くするか、車高を高くする必要がある」 「車高が高いということは、ダウンフォースを発生させられる場所に車体がないということだ。つまり、スプリングが硬いということでもある。現在のマシンでは、路面に一番近いところにダウンフォースの宝庫がある。そこにたくさんのダウンフォースがあるんだ。しかしその一方で、ストレートエンドを乗り切る必要もあるんだ」 「つまりストレートエンドのダウンフォースが車高を無駄に消費してしまい、その分低速で不利になってしまう。そういうある種の限界があるんだ。そして低速域でパフォーマンスを失うことなくストレートエンドで発生する負荷を支えることができなくなる。ストレートエンドでダウンフォースが出ていても、もはや速くはないんだ」 「誰もが、ストレートエンドでそれほどダウンフォースが発生しないようにしている。そしてそのすぐ近くで負荷がかかるようになっている。なぜなら、ストレートエンドのすぐ先には、通常は高速コーナーがあるんだ」 「また低速走行時には、車体が路面から浮き上がってしまい、ダウンフォースを失ってしまうのが常だ。にもかかわらず、十分なダウンフォースを維持する必要もある」