キヤノンITS社長が説く「SIからサービス提供への事業モデル転換」は奏功するか
本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。 今回はキヤノンITソリューションズ 代表取締役社長の金澤明氏と、AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人氏の「明言」を紹介する。 「5年後にはサービス提供モデルがSIモデルを上回る事業規模にしていきたい」(キヤノンITソリューションズ 代表取締役社長の金澤明氏) キヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)は先頃、2024年の取り組みと2025年に向けた事業戦略について記者説明会を開いた。金澤氏の冒頭の発言はその会見の質疑応答で、同社が推進する3つの事業モデルの今後の売上比率について聞いた筆者の質問に答えたものである。 キヤノンマーケティングジャパングループのキヤノンITSは、これまで幾つかのIT企業を統合し、今年で創業42年を迎えたシステムインテグレーター(SIer)だ。そんな「老舗」のSIerも昨今のビジネスを取り巻く環境の変化の中で事業転換を迫られている。冒頭の発言は、そうした動きを反映したものといえよう。 会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは金澤氏の冒頭の発言に注目したい。 まず、図1がこれまでの5年間の売上高の推移である。キヤノンマーケティングジャパンのITソリューション事業とキヤノンITS単体の売上高を併記したグラフで、2025年に前者が目標としていた3000億円を1年前倒しで達成する見込みとなった中で、キヤノンITSはそのおよそ半分を占める見通しだ。 また、キヤノンITSは図2に示すように2025年の在りたい姿を「VISION2025」として掲げ、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」をそのキーメッセージとしている。「共想共創カンパニー」は、「エンゲージメント経営」により土台を強化し、「お客さまの想い」を起点に「3つの事業モデル」を展開する企業として位置付けている。 その3つの事業モデルの進捗(しんちょく)について、金澤氏はそれぞれ次のように説明した。 「サービス提供モデル」については、「業種・業界に特化したサービスの提供やクラウドセキュリティにおけるラインアップの拡充、先進技術を活用したサービスを創出しながら市場への訴求力を強化した」という。 「システムインテグレーション(SI)モデル」については、「企画、設計構築、保守、運用に至るITライフサイクルをフルサポートする案件や、システム構築を上流工程から参画するプロジェクトなど案件の大型化が進んでいる」とのこと。 「ビジネス共創モデル」については、「デジタルトランスフォーメーション(DX)ビジョン立案に向けたコンサルティングを中心に実績を積み重ね、ビジネス共創モデルの取り組みから後続の開発案件につなげている」としている。 その上で、金澤氏は「3つの事業モデルの強化を通じて利益ある成長拡大を果たし、将来への投資を潤沢に行う盤石な収益基盤体質の確立を目指す」とし、2025年の全社売上高を2021年比で1.5倍、SIモデルの売上高を同1.3倍、サービス提供モデルを同2倍に拡大する意向を明らかにした。 そこで、筆者は会見の質疑応答でもう一歩踏み込んで、「3つの事業モデルの売上比率は今、どんな割合か。5年後、その割合をどんな比率にしたいか」と聞いてみた。すると、金澤氏は次にように答えた。 「3つの事業モデルの売上比率は公表していないが、もともとSIモデルを中心にやってきた経緯があり、ここ数年はサービス提供モデルにも注力している。ビジネス共創モデルは両事業に関わるコンサルティングのような位置付けだ。5年後にはサービス提供モデルがSIモデルを上回る事業規模に伸ばしていきたい」 冒頭の発言は、このコメントの最後の部分を取り上げたものである。 筆者は1980年代のキヤノン販売(キヤノンマーケティングジャパンの前身)時代から取材してきたが、キヤノンITSのみならず、親会社であるキヤノンマーケティングジャパンが今、業態転換を迫られている中で、ITソリューション事業におけるサービス提供モデルはグループを挙げての次なる中核事業の1つに大きく育て上げていく必要がある。長らくチャレンジしてきた姿を見てきたが、これまでの複合機やプリンター、カメラによる成功モデルの殻を破れるか。注目していきたい。