アップル、「Vision Pro」「iPhone16」の生産縮小か
米アップルがゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro(ビジョンプロ)」の生産を縮小していることが分かった。2024年夏以降、生産台数を大幅に引き下げており、年末までに現行モデルの生産を中止する可能性があるという。一方、9月に発売したばかりの最新スマートフォン「iPhone 16」の生産台数も縮小する計画だと報じられている。 ■ Vision Pro、販売低迷 要因は価格 米メディアのジ・インフォメーションや英ロイター通信などが報じた。 Vision Proは、発売当初に注目を集めたものの、その後の販売台数は減少傾向にあるという。その要因は3499ドル(日本では59万9800円)から、という価格だ。これに対し米メタの「Quest(クエスト)3」は約500米ドル。こうした安価な製品との競合により、Vision Proの販売は低迷しているという。 ジ・インフォメーションによると、Vision Proの部品を手がけるサプライヤー企業の従業員は、「24年5月に製造を中断した」と述べた。この企業はそれまでに50万~60万台分の部品を製造していたという。 また、アップルは最近、中国の電子機器受託製造サービス(EMS)大手、立訊精密工業(ラックスシェア)に対し、24年11月から生産を段階的に縮小する可能性があると伝えた。 ■ エコシステムの成長遅く、廉価版で巻き返しか Vision Proについては、先ごろ米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、開発者が積極的にならずアプリの数が増えないと報じていた。
Vision Proのエコシステム(経済圏)は、iPhoneや腕時計型端末「Apple Watch」よりも成長が遅いと同紙は報じている。08年にiPhone向けアプリ配信ストア「App Store」が立ち上げられてからほぼ1年後、アップルはアプリが5万本あると明らかにした。Apple Watchは発売から5か月後に1万本に達した。 これに対し、Vision Proで利用できるアプリは24年9月時点で約1770本。このうちVision Pro専用に開発されたものはわずか34%にとどまった。残りは既存のアップル端末向けアプリにVision Proの機能を追加したものだと米調査会社のアップフィギュアーズ(Appfigures)は分析している。 アップルが「空間コンピューター」と呼ぶこの製品は、(1)完全にデジタルの映像世界に没入させる仮想現実(VR)と、(2)目の前の現実風景にデジタル情報を重ね合わせて表示する拡張現実(AR)、を融合させた複合現実(MR)のヘッドマウント端末だ。 オペレーティングシステム(OS)「visionOS」を搭載しており、ユーザーは目、手、声を使って操作し、ゲームやエンターテインメント、ビジネス、教育分野など様々な用途で利用できる。 だが、普及の足かせとなっているのが、約60万円という高額な価格設定だ。これに先立つ24年6月、ジ・インフォメーションは、アップルが機能を絞った廉価版「Vision」を開発しており、25年末までの発売に向けて取り組んでいると報じた。 ■ iPhone 16も生産縮小か 一方、米経済ニュース局CNBCは、アップルがiPhone 16の生産台数を引き下げたと報じた。アップル製品の市場動向やサプライチェーン情報に詳しい中国TFインターナショナル証券のミンチー・クオ氏の分析を引用した。 クオ氏の予測によれば、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)などのEMS大手が24年10~12月期及び25年上半期に製造するiPhone 16の台数は当初計画から約1000万台引き下げられる。同氏はアップルが25年に「iPhone SE(第4世代)」を発売すると予想しており、同じ企業の異なる製品が売り上げを奪い合う「カニバリゼーション」が起こるとみている。
小久保 重信