EV、リチウムイオン電池、太陽光パネル…「過剰生産問題」を非難する先進国に中国が“開き直り”を決め込む「4つの理由」
2)一部先進国の問題
現在、過剰生産問題で中国に非難を浴びせているのは、一にアメリカ、二にEU、三に日本である。いずれも先進国グループだ。 それに対して、発展途上国の「グローバルサウス」は、どの国も非難の声を挙げていない。それどころか、中国製のEVや太陽光パネルなどを、「リーズナブルな価格で性能も素晴らしく、環境にも優しい」と、喜んで買ってくれている。少なくとも中国は、そのように認識している。 そのため中国からすれば、「非難は一部先進国だけの主張でしょう」と捉えているのだ。地球温暖化問題などでも同様だったが、「先進国の主張が世界全体の主張ではない」というわけだ。 加えて、11月に大統領選を控えたジョー・バイデン政権は、「政敵」のドナルド・トランプ前大統領の陣営から、「中国に甘い」と叩かれることを避けたい。EUも6月7日~9日に議会選挙が行われ、中国問題も争点の一つだった。そうした「選挙対策としての先進国による中国叩き」と捉えている面もある。 さらに言えば、EU加盟の27ヵ国も、決して一枚岩ではない。5月に習近平主席が訪れたハンガリーでは、オルバン・ビクトル首相が、「ハンガリーと中国には何の問題も起こっていない」と言い切った。 習近平主席は、4月にドイツのオラフ・ショルツ首相と、5月にフランスのマクロン大統領と首脳会談を行い、ともに友好親善を謳った共同宣言を発表している。中国は、EUが本気で自国に牙を剥いてきているとは認識していないのである。
3)経済安保
前述の5月14日のホワイトハウスの発表文には、「国家安全保障」という文言が出てくる。それをよく読むと、「経済安全保障の一環としての対中制裁」であることが見て取れるのだ。 実際、私が先日お目にかかった中国の大手国有自動車メーカーの幹部は、EVを「走る監視カメラ」と称していた。近未来のスマートシティ時代においては、自動運転車から発せられる情報データを蓄積して、スマートシティを不断に進化させていくというのだ。 アメリカからすれば、中国からそんな「物騒なもの」を輸入するわけにいかない。かつ中国のEVの発展も、なるべく遅らせるようにしたい。 EUはアメリカほど深刻に考えていないかもしれない。だが、そうした中国の先端技術が、EUにとって「最大の脅威」であるロシアに丸ごと提供されているとなれば、いい気持ちはしないだろう。 いずれにしても、単純な貿易摩擦ではなく、経済安保の一環を捉えれば、様相はまるで異なってくる。