黒沢清はなぜ、『蛇の道』を自らリメイクしたのか? 26年前の復讐譚がフランスで蘇る
26年前から映画をつくるモチベーションは驚くほど変わっていない
―時代の変化に応じて、映画や映像のありようも変わってきましたが、オリジナル版の『蛇の道』をつくられた1990年代後半と現在を比較して、ご自身の映画や創作に対するモチベーションの変化は感じていらっしゃいますか。 黒沢:オリジナルをつくった当時の心境をあまり鮮明に覚えていませんが、純粋に映画をつくるモチベーションは驚くほど変わっていないように思います。「これが面白い、こういうことがしたい」と思えることを、とにかく一生懸命、みなさんの協力を得ながらやっていくことに変わりはありません。 ただ、実際に映画をつくる前後の時間はものすごく変わりました。Vシネマ(オリジナル・ビデオ作品)を撮っていた頃とは状況が違って、いまは企画も簡単に成立しないし、資金調達やキャスティングの面でもいろいろなハードルがある。この映画にしても、最初に「『蛇の道』のリメイクをやりたい」と言い始めてからはずいぶん時間がかかっているんです。 ─オリジナル版『蛇の道』が発表された1990年代終盤は、『CURE』(1997年)や『ニンゲン合格』(1999年)、『カリスマ』(1999年)など非常に多作でした。今年、2024年も本作のほかに『Chime』『Cloud クラウド』と新作を3本連続で発表されることになり、当時との不思議な一致があります。 黒沢:新作が重なったのはまったくの偶然なんですよ。この『蛇の道』を含む、以前からの企画やコロナ禍で止まっていた作品が、昨年(2023年)いきなり撮れることになったんです。正直に言えば、もう少し間を空けたい気持ちもありましたが、いろいろなスケジュールの都合もあったのでこのタイミングでつくることになりました。 1990年代は年に映画を5本くらい撮ったこともありましたが、昔は映画が完成したら僕の仕事はほとんど終わり。取材を受けることもなかったので、作品を振り返る機会もないまま次々に撮り進めていましたね。だけど、いまは映画を1本撮ったら、その作品がなるべく良い方向に進むように力を尽くしますし、行く末を見守ることも増えました。なかなか次の作品に進めないので(笑)、どうしても量産はできません。ただ、それにしても昨年は忙しい年でしたね(笑)。
インタビュー・テキスト by 稲垣貴俊 / 撮影 by 西田香織 / 編集 by 後藤美波