北ミサイルはどこまで脅威なのか(下) 核搭載可能な“小型化”成功の恐れ
北朝鮮による弾道ミサイル発射が活発化しています。8月末には、地上からではなく、潜水艦から発射されました。先月には5回目となる核実験も行い、「核ミサイル」への懸念も高まっています。予想以上の軍事的技術の進展も指摘される北朝鮮。その本当のところは、どの程度の“実力”なのか。元航空自衛隊幹部で作家の数多久遠氏に寄稿してもらいました。 【写真】北ミサイルはどこまで脅威なのか(上)日本の迎撃能力を超える量と技術も
◇ 前回の記事で、北朝鮮の弾道ミサイルは、既に日本にとって非常に脅威であることを述べました。
主要な脅威であるノドンミサイルは、日本の弾道ミサイル迎撃能力を超えるほど多数が配備されている上、「策源地攻撃」によって破壊することも困難です。ムスダンミサイルは、ディプレスト弾道、ロフト弾道による攻撃で、弾道ミサイル迎撃網を突破してしまう可能性があります。それに加え、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル運用能力を確保すると、相乗効果によって弾道ミサイル迎撃がより困難になります。 しかし、北朝鮮の弾道ミサイルを脅威だとするのは、ある意味で間違いです。 軍事的な“力“としての脅威だけでなく、北朝鮮の弾道ミサイルの現実的な脅威を考えるためには、アメリカの存在、アメリカの抑止力を考える必要があるためです。 今回は、北朝鮮の弾道ミサイルは、はたして脅威なのかという問題に、アメリカによる抑止力が、どのように関係しているか、そして今後も抑止が機能するか考えてみます。
軍事的な意味における「脅威」
脅威とは「意思」と「能力」であるとされます。その際の意思と能力は、足し算で考えるのではなく、かけ算で考えるものだとされています。 アメリカが日本にとって脅威かと考えた場合、能力は非常に高いものの、同盟関係にある日本を攻撃する意思はゼロです。足し算であれば、脅威は意思はゼロでも、能力は高いため、相応に高いということになりますが、かけ算ではゼロをかけるため、脅威はゼロだとする考え方です。 北朝鮮の弾道ミサイルに関しては、能力は高いものの、意思となると微妙です。もちろん、北朝鮮は日本を敵視していますから、その意味では意思はあると言えます。 ですが、だからと言って、北朝鮮が日本に弾道ミサイル攻撃をかけてくると考える人はほとんどいないでしょう。その理由は、言わずもがな、アメリカの存在です。更に言うなら、アメリカの核を含む戦力によって、抑止され、攻撃の意思を持てずにいるためです。(もちろん願望はあるでしょう)。 この事実を踏まえると、北朝鮮の弾道ミサイルが、日本にとって真に脅威かと言う問いの答えは、アメリカによる北朝鮮の抑止が、今後も機能するかどうかという点にあると言えます。 抑止は、脅威と同様の意思と能力に加え、その二つが相手に認識されることによって成立します。 アメリカによる北朝鮮の抑止は、アメリカ世論が孤立主義的な方向にシフトしていることから、意思の点では低下傾向だという事実があります。韓国や日本が独自で防衛を行うべきと主張するトランプ氏のような人物が、大統領になる可能性が出てくるほどです。 こうしたアメリカ世論の傾向に加えて、北朝鮮の核と弾道ミサイルが、アメリカ、特にアメリカ本土に脅威を与えることで、北朝鮮に対する抑止が充分に機能しなくなる可能性があります。 特に、トランプ氏が支持を受けていることからも分かるとおり、日本が北朝鮮から攻撃を受けた際、アメリカが報復として力を行使する懲罰的抑止が機能するかどうかは、極めて怪しいと言えるでしょう。 北朝鮮に対して軍事力を行使すれば、核ミサイルがアメリカ本土に降り注ぐとなった時、アメリカ世論が報復行動をとってくれるかは極めて不透明だと言えます。 そうなれば、北朝鮮の弾道ミサイルは、日本にとって恐るべき脅威となります。