北ミサイルはどこまで脅威なのか(下) 核搭載可能な“小型化”成功の恐れ
アメリカへの弾道ミサイル攻撃
北朝鮮が現在、保有する弾道ミサイルのうち、アメリカに到達する可能性があるのは、グアムに届くとみられるムスダンと衛星軌道にも物体を投入可能なテポドン2号です。 また、開発中とみられるKN-08が、テポドン2号以上の能力を持った大陸間弾道ミサイル(ICBM)となるもようです。さらに改良型のKN-14を開発中との情報もあります。 加えて、射程など能力がよく分かっていない潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)であるKN-11があります。ただしKN-11は、大きさなどからムスダンに近い能力だと思われます。しかしながら、現在の北朝鮮潜水艦の能力では、プラットホームであるシンポ型潜水艦が自由に行動できる可能性は皆無に近いため、現実的な戦力としては疑問です。 これを踏まえると、現状ではアメリカ本土に打ち込まれる可能性があるのは、テポドン2号ですが、少数がサイロ運用されているだけです。アメリカは、大陸間弾道ミサイルからアメリカ本土を防衛するため、テポドン2号を迎撃可能な「GBI」という迎撃ミサイルを、アラスカとカリフォルニアの基地に配備しています。北朝鮮がテポドン2号を発射しても、迎撃され、アメリカ本土には到達しない可能性が高いでしょう。 しかも、テポドン2号が、サイロから正常に発射されるかどうかは、未知数です。 今後、ノドンなどと同様に、移動式発射機で運用される可能性が高いKN-08(あるいは14)の開発、配備状況によって、アメリカに対する弾道ミサイル戦力は大きく拡充される可能性があります。 もしKN-08が大量に配備されると、北朝鮮とアメリカの関係は、現在と大きく変容するでしょう。 長く続いた冷戦期にも、日本においては、ほとんどまともに考えられず、メディアが報道することも少なかった核抑止について、真剣に考えなければならない時代に突入します。
核兵器の搭載は可能なのか?
北朝鮮は、9月9日に通算5回目の核実験を行いました。威力は、今まででも最大とみられ、高出力化ができていることは間違いありません。小型化については、各方面で分析されていますが、今回の実験は、ブースト型原爆であったと見られており、実験レベルでは、弾道ミサイルに搭載可能なほど、小型化できている可能性が高いようです。 ですが、弾道ミサイルの発射、及び大気圏への再突入では、搭載される核弾頭も、非常に強い加速度と振動にさらされます。精密に作られている核弾頭がその衝撃に耐えて、正確に作動できるようにするためには、もう少し時間がかかるでしょう。 実際に搭載するにあたっては、問題となるのは“小型化”と表現されていますが、実際にはサイズではなく重量です。 衛星打ち上げ用のロケットでも、衛星格納部が膨らんだロケットがあるように、宇宙空間を飛ぶミサイルに、空気抵抗は関係ありません。地表から発射後は、徐々に加速しながら上空に向かいます。高い速度となるのは空気の薄い高空なので、それほど影響はないのです。 重量が重いと、同じエネルギーで打ち上げても、飛距離が短くなります。逆に言えば、核弾頭の小型化ができなければ、ミサイルを大型化させれば、核弾頭は搭載できます。広島と長崎に投下された原爆は共に5トン程度と非常に巨大で重い核爆弾ですが、米アポロ計画で人類を月面まで運んだサターン5型ロケットなら、2発を積んで地球の裏側にさえ到達させられます。 このため、分析されている“小型化”は、他の弾頭と同じ程度の軽量化ができているかという意味になります。 上記のように、相当程度に“小型化”は進んでいる模様ですが、実戦配備できるようになるためには、震動に対する信頼性をあげなければならないため、恐らくもう少しかかるでしょう。 なお、日本に対しての話では、そもそも核弾頭を搭載できるかは、あまり意味はありません。 ここまで書いたように、日本の弾道ミサイル防衛は、既にかなりの実力をつけています。北朝鮮が核弾頭を弾道ミサイルに搭載できるとしても、大量の核弾頭を作るためには、まだ時間がかかります。少数では、弾道ミサイル防衛によって、迎撃されてしまう可能性が高いのです。 また、一部では指摘がされていますが、核弾頭以外にも、脅威となるものがあります。北朝鮮は、核弾頭を作るぐらいですから、大量の放射性廃棄物を抱えています。これを粉末状にして、通常の弾頭に仕込むことが可能です。これは、ダーティボムと呼ばれます。 もしこれが東京上空で爆発すれば、福島の原発事故が東京で起きたことと同じ結果となります。東京23区が帰還困難地域にでもなれば、その経済的損失は計り知れません。ダーティボムの被害で、直接死ぬ人はいないでしょう。しかし、経済の混乱で、生計が成り立たなくなる人が何人出てくるかは、想像もできません。 また、北朝鮮は、ダーティーボム以外にも、化学兵器や生物兵器も保有しており、これらが弾道ミサイルに搭載される可能性があります。