北ミサイルはどこまで脅威なのか(下) 核搭載可能な“小型化”成功の恐れ
誰が何を抑止するか?
ここでは、核抑止の理論については深く触れません。軍事に造詣のある方でも、核抑止というとMAD(Mutual Assured Destruction、マッド=相互確証破壊の略語)しか知らない方も多いでしょう。安全保障の入門書でもMADしか書かれておらず、それが提唱された理由も、MADが決して平和的な核戦略であるとは限らないことも語られていないことがあります。 この問題が難しいのは、議論されるときに何を抑止するかが非常に不明確なまま議論がされることが多いことです。 先日も、安倍首相が、アメリカの核先制不使用宣言に反対したとの“誤報”が流されましたが、核を先制使用にコミットすることで抑止したいのは、核を用いない攻撃を抑止することにあることを認識する必要があります。 アメリカが核の先制不使用を宣言すれば、北朝鮮が核兵器を使用しない限り、韓国や日本に、化学兵器や生物兵器、それにダーティボム弾頭を弾道ミサイルで打ち込んでも、北朝鮮への核による反撃はしないという意味となります。 北朝鮮は、延坪島を砲撃したり、浦項級コルベット天安を魚雷攻撃したりといった数々の無法を行っていますが、この程度であれば、アメリカが対応してくる可能性は低いと考えているためです。 アメリカに対して、核ミサイル攻撃が可能になれば、“この程度”が大きく拡大する可能性があります。 日本にとっては、北朝鮮の核及び弾道ミサイルが、日本にとって直接脅威であるかどうかよりも、アメリカにとって脅威となるかどうかの方が、より重要なのです。 この問題の核心は、北朝鮮の弾道ミサイル及び核兵器(のアメリカに対する脅威)が、北朝鮮に対するアメリカの関与、それも、日本への攻撃(核攻撃だけでなく、核を用いない通常兵器、化学兵器、生物兵器などの非核攻撃を含め)に対して、アメリカの行動を “抑止”してしまうかどうかにかかっている点です。 前述したとおり、北朝鮮が日本に化学兵器や生物兵器、それにダーティボムを使って弾道ミサイル攻撃をしても、核弾頭を搭載した弾道ミサイルがアメリカ本土に発射される可能性があれば、関与を躊躇する可能性は充分にあります。もし、トランプ氏が大統領になれば、その可能性の方が高いでしょう。 北朝鮮が、国際社会の圧力を受けても、執拗なまでに核と弾道ミサイルの開発を進める理由は、金王朝を維持するために、アメリカの関与を抑止することにあるのです。 SLBMであるKN-11が配備されても、潜水艦の能力が向上しない限り、GBIによって防衛されるアメリカに、ミサイルを到達させることは難しいでしょう。 移動式発射機に搭載され、生残性が高いKN-08(もしくは14)型ICBMが、いつ実用化され、どの程度配備されるかが、当面の情勢を決める鍵です。 具体的なポイントは、KN-08の配備数がGBIの配備数を上回ったり、GBIによる迎撃を回避するための、軌道制御能力を持つかどうかです。もし、そうなれば、北朝鮮はアメリカに核爆弾を打ち込める状態となります。
-------------------------------- ■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、ブロガー。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。一方、ブロガーとしても活躍し、ミサイル防衛、防衛関係法規、防衛力整備など、防衛問題全般で鋭い解説記事を書いている。著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(共に祥伝社)がある