デザイン産業に注力するシンガポール、その特徴とは?【シンガポールデザインの現在地 01】
経済発展とともにアジアのデザインが急速に進化している。中でもシンガポールは、国を挙げてデザイン産業に力を入れている国のひとつだ。 【画像】シンガポールでもっとも注目される建築集団、WOHAの最新作ホテル「21 Carpenter」 今回、今秋に開催された「シンガポールデザインウィーク 2024」にフォーカス。本記事ではまず、シンガポールデザインの発展の背景や、その特徴について論じてみたい。
アジアのデザイン大国、シンガポール
来年でちょうど建国60年を迎えるシンガポールは、国⼟720平方キロメートルと、ほぼ東京23区と変わらない⼤きさ。歴史も⼟地もないマレー半島南端の⼩国ながら、国際ビジネスのハブとしてなくてはならない存在に位置づけられ、アジアで最も将来性があると噂されている国だ。 急成⻑した理由は、東南アジアのちょうど中央に位置するという地理的利点を活かした貿易産業で⼒をつけ、その後も政府主導の徹底した経済政策と法整備によって、時代のニーズに応じてビジネスのしやすい環境をつくり上げたことが⼤きい。 そのため貿易や⾦融、サービスに加え、情報通信や医薬品、精密機器といった先端技術も成⻑。そしてここ数年にわたり、政府がもっとも⼒を⼊れているのがデザイン産業だ。 デザイン推進のための国家機関、Design Singapore Council(DSC)が軸となり、基礎教育にデザインプログラムを取り⼊れ、⼀般企業や公共機関に対してデザインの理解を促し、実践するためのプロモーションを展開。ローカルブランドを活性化し、デザイン企業やデザイナーの仕事⼒を強化する⽀援事業も⾏っている。
シンガポールデザインの特徴とは?
次第に存在感を⽰しつつあるシンガポールデザインの現在地は、秋に開催されるシンガポールデザインウィークで確認できる。今年開催された「シンガポールデザインウイーク2024」には、700組以上のデザイナーが参加。国⽴博物館やプラナカン博物館ほか、数々の芸術⼤学が建ち並ぶ⽂化地区「ブラス・バザー・ブギス」。マーライオンやマリーナ・ベイ・サンズなど⼈気スポットが集まるベイエリア「マリーナ」。世界的ブランドのブティックやデパート、ショッピングセンターなど、ファッションとショッピングの中⼼地「オーチャード」など、街全体が会場となって80以上のイベントを開催。のべ20万⼈が国内外より来場した。 では、シンガポールデザインの特徴とはなんだろう? 複数の⺠族と⽂化が複雑に⼊り混じり社会を形成されている国家のため、国を代表するようなものづくりはこれだと限定するのは難しい。伝統と歴史に裏付けられる⼿仕事の技、各地の気候や⾵⼟が⽣きる豊かな地域性がデザイン思想と強く結びつく⽇本⼈の感覚からすると、少し⼼許なくも感じる。 しかし、現地のデザイナーたちの意識はとても⾃由で、先⾒的な感覚に満ちている。外国籍が4割を占め、中華系、マレー系、インド系などが混じり合う多⺠族社会のなかでは、厳格な様式や慣習の制限を受けることが少なく、⽣まれながらにして多様性を持ち合わせている。さらに英語が公⽤語のひとつであり、学校教育もほぼすべての授業を英語で⾏なっていることも⼿伝って、リアルな国際的感覚が⾝についている。 新しい形や技術、スタイルがフォーカスされがちだが、シンガポールの気になるデザイナーたちは、より⼈の感覚や記憶、意識を丁寧に拾い上げ、新たな視点で捉え直し、再び⼈のもとに良きかたちでフィードバックしようとしている。 今年のデザインウィークがテーマを「People of Design」と謳ったことにも、デザインは単なるトレンドではなく、世の中のすべての仕組みであり、⼈が考え、つくり、伝え、存在し続けるものであることを考えさせてくれる。 次回の記事では、今回の「シンガポールデザインウイーク2024」で見つけた注目のデザイナーを紹介したい。
文:猪飼尚司