韓国の文化・サブカルチャーが国際的に注目された一年だったが、では「ウェブトゥーン(縦読み漫画)」は?
ウェブトゥーンを紙で売る
ではどうするのか。 作品/IPの輸出としては、当然ながら紙のほうがコミックが売れる国があるなら、紙の単行本を作ろうという話になる。だから現地企業との提携強化が進んでいる。 たとえばNAVERはフランスでは出版社ミシェル・ラフォンとパートナーシップを締結してNAVER Webtoonの人気作品の書籍化を促進。 KADOKAWAとアシェット(Hachette)の合弁会社であるマンガやライトノベルの出版社Yen Pressは、2022年に韓国を代表するCP社/ウェブトゥーン・スタジオであるREDICE StudioやRIVERSEと協力して韓国ウェブトゥーンとウェブ小説を出版するIze Pressを立ち上げ、『俺だけレベルアップな件』や『全知的読者の視点から』『ザ・ボクサー』などの紙の単行本をリリースしている。『俺レベ』の単行本はヨーロッパや北米では昨年に引きつづき今年に入ってもグラフィック・ノベルやマンガの売上トップ10以内をキープしている国が多い。 韓国漫画の海外への輸出自体の歴史は古く、日本でも1970年代から単行本での翻訳があるが、ヒットしたと言っていい作品が登場したのは2000年代の『らぶきょん LOVE in 景福宮』が最初であり、それまでに四半世紀以上かかっている。 ある国で作られたコミックを別の国で流通させ、ヒットさせるのは難易度が高い。 日本マンガの外国語版も翻訳する際に、日本のコミックスのように右開きにするのかグラフィック・ノベルなど欧米のコミックに合わせて絵を反転させて左開きにするのか、判型や装丁、表紙は日本版に近いかたちでいくのか現地のコミック刊行物の感覚や慣行に倣うのか、マンガのなかの描き文字は視覚的な表現としてそのままにするのか「文字」なのだから翻訳して現地語で作成するのか、等々、さまざまな点でローカライズに試行錯誤してきた歴史がある。 結局、うまくいっているところは日本側の意向を押しつけすぎず、「餅は餅屋」で現地側の裁量がそれなりにあり、しかし現地出版社や翻訳者が日本マンガに対する愛と理解がある――双方の文化の違いを踏まえた上で折り合いのつくかたちを考えているケースが多いような印象がある。 ウェブトゥーンも各国に良いアライアンス先を見つけることが重要になるだろう。 ウェブトゥーンの紙の単行本の各国語版作成で興味深いのは、国によって右開きなのか左開きなのかも違えば、コマの割り方、フキダシの入れ方も異なる点である。元データが縦スクロール用に1コマずつ、絵とフキダシのレイヤーを分けて制作されたデジタルコミックゆえに、現地のコミック単行本に近いかたちにアレンジしやすくなっている。 筆者の持っているIndoor Kim,Bluepic“The Advanced Playret of the Tutorial Tower 1”(papertoons,2023.日本語版タイトルは『チュートリアル塔の廃人』、LINEマンガで配信)のドイツ語版では、描き文字はハングルのままで横にドイツ語での読みが書いてある。こういうやりかたは日本でも2000年代に「コミックビーム」に連載されていた韓国漫画の翻訳版で行われていたが、近年のウェブトゥーン翻訳ではほとんど行われていない。