「81歳で新人漫画賞」を受賞した漫画家 弘兼憲史は20代後半で「遅咲き」だった 松本大洋が賞賛する作品とは?
40代デビューの例としては、『カレチ』『国境のエミーリャ』などで知られる池田邦彦氏もその一人。鉄道関係のライターとして活動後、第54回ちばてつや賞一般部門で大賞を受賞し、43歳で漫画家デビューした。古びた団地に暮らす高齢者たちの哀歓を描いた『ぼっち死の館』が話題となった齋藤なずな氏は、アルバイト的な仕事を転々としたのちスポーツ新聞でイラストルポの仕事を手がけ、40歳で漫画家に。現在59歳の池田氏はもちろん、78歳の齋藤氏も現役で活躍中である。
■60代でデビューしたハン角斉 そして、デビュー年齢で青木雄二氏を大幅に超えたのが、ハン角斉氏だ。狂気じみた殺人犯の正体に虚を突かれる短編『山で暮らす男』でヤングスペリオール新人賞「編集長金一封」受賞。当時64歳で初めて雑誌に作品が掲載された。そして2022年に初単行本『67歳の新人 ハン角斉短編集』が刊行される。 ハン角斉氏は、小学生の頃から漫画家になりたかったが挫折。整骨院を営む傍ら45歳にして再びペンを執り、投稿を繰り返すも落選続きだったという。それでも諦めず20年ほどの時を経てデビューにこぎつけたのだから、その執念には頭が下がる。
単行本にはデビュー作を含む6編を収録。モテない男のペーソス(哀愁)がしみる『親父のブルース』、余命宣告された男の思わぬ最期を描く『黒い蝶』、幼い娘を殺された母の絶望と救済の物語『案山子峠』など、いずれも妄想と現実が反転するような仕掛けをはらむ。 細密なペンタッチも印象的で、謎の収容施設からの逃走劇『眠りに就く時…』の草木や星空、『模様』の顔にアザのある少女の描写には偏執狂的なものすら感じる。画面のインパクトにおいても青木氏に優るとも劣らない。
ハン角斉氏が憧れの作家として名前を挙げる池上遼一氏は1944年生まれの80歳。現在もヒット作『トリリオンゲーム』(原作:稲垣理一郎)で健筆を振るっている。前出の弘兼氏も3年後には80歳になるが、余裕でバリバリ描いているに違いない。 弘兼氏も含む1947~1949年生まれの団塊世代には、今も現役の漫画家が大勢いる。ざっと思いつくだけでも、本宮ひろ志、かわぐちかいじ、西岸良平、尾瀬あきら、小山ゆう、さだやす圭、諸星大二郎、弓月光、大島弓子、山岸凉子、青池保子、萩尾望都など。いずれもまだまだ現役で描き続けると思われる。人生100年とも言われる超高齢社会において、これからは80代の漫画家、何なら80代の新人漫画家も珍しくなくなるのかもしれない。
南 信長 :マンガ解説者