相次ぎ情報漏えい発覚の保険業界、こうなることは不可避だった構造上の問題
大手の損害保険会社や生命保険会社から、代理店に出向した社員を通じた情報漏えいが相次いで発覚している。 【全画像をみる】相次ぎ情報漏えい発覚の保険業界、こうなることは不可避だった構造上の問題 報道などによると、大手損保では損害保険ジャパンや東京海上日動を筆頭に計250万件、生保は日本生命や第一生命などで35万件にも上る大規模な情報漏えいが明らかになっている。企業によって経路は異なるが、出向社員が出向先の代理店で他社の契約者情報にアクセスし、出向元に共有していた──というのが主な流れだ。 一連の問題は出向社員や個社の法令遵守意識の希薄さが招いた結果である一方で、日本の保険業界特有の構造が影響した側面も大きい。海外との比較や営業の第一線で働く関係者の声から、問題の実態が見えてくる。
日本の保険業界の常識は世界の非常識?
「損保業界は十数年前と変わってないと思いましたね。またやらかしたのかと。ムラの常識は世の中の非常識なのでしょう」 こう吐き捨てるのは元外資系大手保険グループの社員。「また」というのは、保険業界で2005年から2007年まで続いた一連の保険金の不払い問題を指している。当時の保険業界では足掛け3年にもわたり、大手から中堅、外資に至るまで各社が度重なる行政処分を受けた。 なぜ、今回の情報漏えいのような問題が起こったのか。そこには、日本特有の保険販売の仕組みがある。アメリカの状況と比べてみると、構造上の問題点が浮かび上がってくる。 まず、保険販売のルートは大きく2種類に大別される。一つは、保険会社による「直接販売」、もう一つは独立保険代理店や保険ブローカーなどによる間接販売だ。 金融庁が2024年2月に公表した「米独における保険募集にかかる規制に関する調査」(NTTデータ経営研究所への委託調査)によると、アメリカの個人向け自動車保険は、2022年アメリカにおいて売上高にあたる正味収入保険料ベースで最大の保険種目となっている。その販売チャネルは、正味保険料ベースで、保険会社の直接販売(インターネット、電話、専属代理店等)が67.4%、エージェント(独立代理店、ブローカー等)は、32.6%だ。 これに対し、日本損害保険協会の調査によると、日本国内での販売チャネルは通信販売などの直接販売が8.9% 、代理店扱いが90.2% 、保険仲立人(保険ブローカー)扱いが0.9%となっている。つまり、日本の損害保険の9割は保険代理店で売られている。保険会社の直接販売が7割弱を占めるアメリカとは対照的なデータだ。