相次ぎ情報漏えい発覚の保険業界、こうなることは不可避だった構造上の問題
代理店への出向「ほとんどない」アメリカ
さらに、代理店の内訳を見ていく。 日本の場合、自動車を販売するディーラーや自動車整備工場が保険代理店を兼営していることが多く、その割合は55.3%に上る。 一方で、先の金融庁の調査によると、ニューヨーク州で自動車販売店が損害保険代理店を兼営している例は2件だけだ。2024年2月現在、自動車修理工場が損害保険代理店を兼営している例は確認できなかったという。 さらに、「保険会社の社員が独立代理店に出向することは、実例が殆どない模様である」(同調査より)という。その理由として、同調査には「特に保険会社から独立保険代理店へ従業員を出向させると、保険代理店がアクセスできる他の保険会社に関する機密のビジネス情報を出向者が閲覧できる弊害が懸念されるためである」と書かれている。 まさに、日本ではこうした弊害が顕在化したわけだ。
大手損保の現場からも疑問の声
出向元の保険会社から出向社員に対して心理的圧力が過度に働きやすい構造も、情報漏えいが発生しやすい土壌の醸成につながっているといえる。 損保の営業現場では、出向社員が出向元の保険会社からの販売目標という厳しいプレッシャーにさらされる一方で、損保社員は保険を販売するカーディーラーなどの代理店に頭が上がらず、契約を守るために無理難題を押し付けられるという過酷な状況に置かれている。 ある大手損保幹部は地方で支店長をしていた時に、 「兼業代理店である日本の大手カーディーラーから、正月の初売りで店舗誘導と商談中に洗車をする仕事を当社の社員にやってくれと頼まれたのですが、断ったら競合他社の損保に契約を乗り替えられました」 という。 複数の業界関係者によると、一部の損保では保険代理店への出向者に対し、他社の顧客情報を出向元の保険会社に知らせるよう働きかけがあり、組織ぐるみで情報漏えいをしていた疑いも出てきている。 別の大手損保の保険代理店担当社員は 「こういった不祥事と社内の引き締めは、前回の不払い問題時のように(損保業界では)周期的にやってきます。社内では保険代理店に出向している社員が、出向元である保険会社の人事制度(販売目標など)で評価されるのはおかしいということになり、人事評価も見直すようです」 と明かす。