日本代表・森保新監督が抱える五輪監督兼任という難題
A代表と五輪代表を兼任することに対しては、技術委員会内でも議論百出だったという。最終的にはトルシエ氏の前例と、待ったなしの懸案事項でもあるA代表の世代交代を加速させる上で、2つのカテゴリーの監督を兼ねている方がスムーズに進むという判断を関塚委員長が下した。 しかし、同じ兼任でもトルシエ氏の場合とは状況がまったく異なる。ワールドカップ開催国としてアジア予選を免除されていたトルシエ氏は、1999年及び2000年前半のA代表をいい意味で捨て去り、U-20代表からホープたちを五輪代表に引き上げて、融合させながら世代交代と底上げを図った。 結果として1999年のA代表は4分け3敗と未勝利に終わっている。唯一の公式戦は招待出場したコパ・アメリカ。ここではトルシエ氏がさい配を振るい、同時進行で行われたシドニー五輪のアジア予選は山本昌邦コーチ(現JFA技術委員会副委員長)が指揮を執った。 翻って今後のA代表は、来年1月にUAE(アラブ首長国連邦)で開催されるアジアカップが最初の標的となる。2大会ぶり5度目のアジア制覇を目標にすえて、年内に6つの国際親善試合を国内で戦いながらチームを作る。これまでの流れ通りならば、来年の後半にはワールドカップ予選も始まる。 トルシエ氏のようにA代表を捨てることができない状況下で、森保監督はコーチングスタッフに関しても独自のプランを思い描いている。 「スタッフも私同様、ひとつのグループでは回らないと思います。キリンチャレンジカップに関してはすぐに編成することはできないと思うので、東京五輪代表に関わっているスタッフで臨みたい。(A代表に関しては)いまは白紙の状態ですが、フリーの方、仕事をされている方のすべてを選択肢としながら、焦って決めるのではなく、時間をかけて最高で最強のスタッフを考えながら編成していきたい」 おそらくはアジア競技大会を戦っている間は、U-21代表の横内昭展、齊藤俊秀、和田一郎各コーチの誰かが国内視察担当に回るはずだ。一方でA代表の組閣が森保監督が望む形で進まなければ、兼任は絵に描いた餅に終わりかねない。新設される予定のテクニカルダイレクターの人選を含めて、JFA及び技術委員会の迅速かつ全面的なサポートが不可欠となる。 森保監督はA代表監督の所信として、世代交代と年代間の融合を表明した。A代表に抜擢された東京五輪世代を含めた若手が、ベテランや中堅と競争しながら経験を得る。これが世代交代の流れを生み出し、U-19代表以下の世代が東京五輪代表に引き上げられることで年代間の融合も図られる。 理想的な青写真こそ描かれたが、現状では兼任を具現化させる障害を取り除く解決策が先送りにされた感は拭い切れない。オールジャパンやジャパンウェイなるスローガンが声高に叫ばれるだけでは、森保監督をして 「不可能」と言わしめた現実を変えることはできないだろう。