今こそ「石橋湛山」を学べ! 国民が愛想を尽かし、与党が過半数割れした今、見直すべき"保守本流"の思想とは――。
■湛山イズムによる自民党再生は可能か? ――本書の中で語られる"保守本流"の湛山イズムと、この10年余りの自民党の姿を見比べると、それが同じ政党で、同じ「保守主義」と呼ばれていたことに驚きを感じる読者も多いかもしれません。 そうした湛山イズムの保守主義はなぜ、自民党の中で衰退してしまったのでしょうか? そして今、国民の信頼を大きく失ったように見える自民党が、湛山イズムの「保守主義」によって再生する可能性はあるのでしょうか? 田中 かつての宏池会に代表されるような自民党"保守本流"が衰退した要因はいくつかありますが、直接的には「加藤の乱」(2000年に自民党の加藤紘一や山﨑拓らが中心となって起こした第2次森内閣の倒閣運動)で宏池会がバラバラになってしまったこと。 もうひとつは、野党の弱体化で、先ほど話したように、以前は自民党に対して、社会党というある程度強い野党が存在して、与党の自民党もそうした社会党が示す明確な異論も部分的に生かしてきたのに、小選挙区制の導入以来、強い野党が出現することが至難となっている。 小選挙区制によって政治家の質が大きく低下してしまった。特に世襲議員が増えたことの悪影響は大きくて、政治家の家に生まれたというだけで、能力も意欲もない人たちまで親の地盤や看板で当選して増えてゆく......。 そういう世襲議員も当選回数が1回とかで、党内に影響力を持たない間はいいけど、当選回数を重ねるうちに偉くなって、能力に疑いのある人が重要な役職を占めるようになると実害が大きくなる。 佐高 やはり今の選挙制度が邪魔している部分は大きいと思いますね、例えば比例で絶対得票率わずか2割の自民党が議席占有率6割! これって、全然民意を反映していないでしょ? 僕は田中さんが以前から主張している中選挙区連記制の導入しかないと思いますね。これをやれば絶対に景色が変わると思う。最近になって石破も「中選挙区連記制」と言い始めたけどね。石破って、以前はあれほど小選挙区制を推していたのに(笑)。 田中 最後にひと言。僕は若い頃から一貫して「保守」の立場で石橋湛山という人物とその思想に関心を持ち、宮澤喜一さんなど、直接、彼の薫陶を受けた政治家たちから数多くの湛山の言葉を聞いてきました。 この本を通じて若い世代にも湛山に興味を持ってもらい、今の自民党とは異なる「保守政治」の可能性を発見していただければうれしいですね。 ●田中秀征(たなか・しゅうせい 84歳・右)1940年生まれ、長野県出身。元衆議院議員。著書に『自民党本流と保守本流』(講談社)、『新装復刻 自民党解体論』『小選挙区制の弊害』(共に旬報社)、『平成史への証言』(朝日選書)など ●佐高 信(さたか・まこと 79歳・左)1945年生まれ、山形県出身。評論家。経済誌編集長を経て執筆活動に入る。著書に『湛山除名』(岩波現代文庫)、『西山太吉 最後の告白』(集英社新書)、『お笑い維新劇場』(平凡社新書)など ■『石橋湛山を語る いまよみがえる保守本流の真髄』集英社新書 1155円(税込)元経済企画庁長官の田中秀征氏と、評論家の佐高信氏が対談形式で石橋湛山について語る一冊 取材・文/川喜田 研 撮影/佐々木里菜 写真/時事通信社