「日の光」を浴びることが体に良いのはなぜ? それ以外にもある「体内リズム」を整えるのに重要なこと
ホルモンの分泌リズムを調整する自律神経
ホルモンの分泌リズムにも自律神経は関わっています。第4章でとりあげた副腎のホルモンを例にみましょう。 交感神経に支配されている副腎髄質の場合、そこから分泌されるアドレナリンは交感神経活動と同じようなリズムを示します。つまり日中は高く、夜間は低くなります。血中のアドレナリンとノルアドレナリン濃度を測定すると、もっとも低くなるのは午前3時頃、もっとも高くなるのは午前9時頃のようです。 副腎皮質から分泌されるコルチゾールも、朝の早い時間帯に分泌が増えます。こちらのリズムに関してはおもしろいことがわかってきています。第4章で述べたように、ストレス時に分泌されるコルチゾールなどの糖質コルチコイドは、脳のホルモンによって調節されています。ところがストレスと無関係に周期的に分泌される糖質コルチコイドに関しては、脳のホルモンではなく、視交叉上核から交感神経を経由する系が関わっていることが指摘されているのです。つまり副腎皮質ホルモンの分泌は交感神経によっても調節されているのです。 コルチゾールには炎症やアレルギー症状を抑える働きもありましたね。先に触れた喘息に加え、花粉症やアレルギー性鼻炎などアレルギー症状が早朝にひどくなるのは、視交叉上核と交感神経を介して分泌される糖質コルチコイドが、免疫系を制御するためと考えられています。 コルチゾールの分泌が朝増えるのは、食事とも関連がありそうです。通常、寝ている夜間は食べないので、朝は血糖値が低い状態です。コルチゾールには血糖値を上げる働きがありますから、血糖値の低下を補うべく朝に分泌が増えるのでしょう。実際、夜間に栄養を補給した例では、コルチゾールの早朝のピークがなくなることが報告されています。
睡眠ホルモン「メラトニン」
交感神経によって調節されるもうひとつの大事なホルモンはメラトニンです。いわゆる睡眠ホルモンともよばれますが、これはメラトニンが夜に分泌され、いくらか眠くなる作用があるからです。体温を下げ、体内リズムを補正する作用もあります。 メラトニンは、脳内の松果体というところで作られています。松果体には交感神経がつながっているので、メラトニンの生成も交感神経によって調節されるわけです。 メラトニンの生成を遮るのは強い光です。これは松果体への交感神経の働きかけを、光が抑えるためです。デジタル機器が発するブルーライトは夜間のメラトニンの分泌を抑え、不眠の原因となりえます。眠れない場合はスマホをベッドに持ち込まないのがいいですね。 メラトニンの分泌が下がる朝、私たちは自然と目を覚まします。年をとると目覚める時間が早くなるのは、メラトニンの分泌の時間帯が前へシフトするためと考えられています。年をとると睡眠も浅くなりがちですが、これはメラトニンの量が減るためかもしれません。認知症の患者さんは昼夜の区別がつかないことがありますが、これもメラトニンの分泌リズムに変化が生じているためともいわれます。できるだけ朝陽を浴び、日中に身体を動かすのがいいですね。 近年わかってきたのは、体内リズムを整えるうえで食事がとても重要ということです。夕飯から朝食までは間食せず、炭水化物を主食とする朝食をとることが、体内リズムを整える秘訣といわれています。もちろん他の栄養素、牛乳やヨーグルトなどのたんぱく質も大切ですね。 食事の情報がどのような経路でリズム調節に関わっているかは定かでありませんが、消化管には独自の体内時計があることが指摘されています。その消化管からの情報は、次章で述べる自律神経系の求心性神経あるいは腸管神経系によって視交叉上核に届けられるとともに、さまざまな内臓機能にも影響を及ぼすようです。不規則な食事は、次章で述べる機能性消化管障害の誘因となることが示唆されています。朝陽と朝食、睡眠が体調を整える鍵となりそうです。 さらに連載記事<意外と多い…1日に分泌される「唾液の量」と「その種類」>では、人間の唾液の仕組みについて詳しく解説しています。
鈴木 郁子(歯学博士・医学博士・日本保健医療大学保健医療学部教授)