カンボジアとラオス、アマンでつなぐ2つの世界遺産と極上リゾート。
世界最大級の宗教遺跡「アンコールワット」を擁するシェムリアップ(カンボジア)と、西洋のコロニアル建築と仏教建築が美しく融合したルアンパバーン(ラオス)。歴史が薫る2つの世界遺産都市で、その異国情緒を存分に味わえるリゾートといえば、アマンの右に出るものはないだろう。 【画像】もっと写真を見る(45枚) アマンサラとアマンタカ。客室数はちょうど24ずつ。どちらもスモールラグジュアリーだからこそかなう心温まるおもてなしと、リゾートそのものが文化遺産という点が魅力だが、それ以上に私が感動したのはアマンの哲学だった。地域の伝統と文化、そして人々の暮らしを最大限尊重することで、共通点よりも個性が際立つ。だからこそアマンでつなぐ古都の旅は、よりいっそう記憶に刻まれる特別な旅となった。
国王の元・迎賓館を、遺跡巡りの拠点にするぜいたく。
今回、私が最初に降り立ったのは2023年10月に開港したばかりのシェムリアップ・アンコール国際空港。郊外に立つ巨大な新空港はどこか無機質に感じられ、「アマンサラ」の看板を掲げたスタッフを見つけたときは大きな安心に包まれた。 空港からアマンサラまでは送迎車で約40分。東南アジアといえば、けたたましいクラクションと荒々しい運転が日常風景だが、送迎車の運転は極めて安全で紳士的だった。そういえば「アマン」の語源はサンスクリット語で「平和なる」だったっけ。そんなことを考えているうちに、シェムリアップの街の喧騒が近づいてきた。 アマンサラは、1960年代にシアヌーク国王の迎賓館だった建物を改装し、2002年にまずは全12部屋のリゾートとして開業した。国賓のために使っていた施設に泊まれるなんて、もちろん初めてのこと。心が躍らないわけがない。ちなみに「アマンサラ」は、前述の「アマン」にヒンドゥー教の天女の名前 「アプサラ」を掛け合わせた造語だという。まるで天女が住む天空へ招かれるかのように、送迎車はそっと敷地内に入って行った。 車寄せを抜け、正面に見えるレストラン棟とプール、そして左奥の中庭と客室棟は、すべて迎賓館時代の建物だ。モダニズム建築とカンボジアの伝統文化が融合した新クメール建築の傑作は、それ自体がアマンの哲学のようにも感じられた。壁の色は白で統一し、回廊で日陰をつくることで高温多湿な環境へも対応。資料によると、フランスのシャルル・ド・ゴール元大統領や、ケネディ大統領の夫人のジャクリーン・ケネディ、英国の有名俳優ピーター・オトゥールなど、そうそうたるVIPがこの場所でバカンスを過ごしたという。 2006年には、敷地の奥に新しい客室、スパ棟、プールを増築し、現在の24部屋すべてが完成した。こちらのデザインを手がけたのはアマンではおなじみ、ケリー・ヒル・アーキテクツ。増築の経緯を知らなければ、どこまでが元の迎賓館か見分けがつかないほどシームレスにつながり、現在のアマンサラを構成している。 シェムリアップの朝は早い。この街の目玉、ワンコールワットが一番美しく輝くのが、日の出のタイミングだからだ。周囲が真っ暗なうちに起床し、出発の準備を始めるのだが、アマンサラのスタッフは午前4時半でもルームサービスでコーヒーとグラノーラ、フルーツを用意してくれる。日が出ると暑さで体力がすぐに消耗するので、万全のコンディションで出発できるのはありがたい限りだ。 写真では何度も見ていたはずのアンコールワットだが、実際に近づいてみるとその感動はひとしお。優美なレリーフ、神がすむ山をイメージした中央祠堂、左右対象のシンメトリックな構造。どの距離、どの角度、どの位置から見ても実に見事な遺跡である。この日はあいにく朝日を望むことはできなかったが、春分と秋分の日には中央の尖塔の真裏から太陽が昇るように設計されていると聞き、季節を変えて必ず再訪したいと思った。 ちなみに知名度ではアンコールワットが群を抜いているが、世界遺産にはその周辺も含む「アンコール遺跡群」として登録されており、見どころは数多い。アマンサラではなんと各部屋に専用のトゥクトゥクとドライバーを用意してくれているので、好きなときに好きなだけ遺跡巡りや市内観光がかなう。私が巡ったのは、アンコール王朝最大の都城アンコールトムや、映画『トゥームレイダー』の舞台で知られるタ・プローム、高さ50mの未完の寺院タ・ケウなど。すべてトゥクトゥクで回れる範囲ではあるが、効率よく回るには事前にフロントで相談しておくとよいだろう。 早朝の遺跡巡りのあとにおすすめしたいのが、クメールビレッジハウスでの朝食だ。王の沐浴地、スラスランを望む場所にアマンサラが所有するプライベートハウスで、見晴らしのよい2階のバルコニーが専用の朝食会場となる。メニューはアマンサラとほぼ同じものから選べ、1階で調理したものができたてで運ばれてくる。麺料理に添えられたハーブはなんと裏手の無農薬畑から採ってばかりとのことで、実にフレッシュな香りを放っていた。 こうした特別なロケーションでのおもてなしは、実はアマンの十八番。私自身も知ってはいたが、実際に体験すると旅の思い出のハイライトとして脳裏に焼き付いている。もちろんアマンサラは料理の味も抜群で、朝昼夜いずれもウェスタンとクメール料理、2タイプの料理を用意してくれている。シェフはインド出身で、プラントベースのヘルシーなビーガンメニューも得意とのこと。3連泊しても食の楽しみはまったく尽きなかった。 日中は遺跡巡りにちょっと暑すぎたので、アマンサラでのんびり過ごすことにした。街の中心部にあるとはいえ、敷地内のプールでのんびりくつろいでいると、アマンはやはりリゾートなのだと実感する。 午前中の遺跡巡りで歩き疲れた足を癒やすには、やはりスパが一番だ。予約したのは、「テンプル・ウォーク」という今の私にぴったりのフット&レッグトリートメント。ヒマヤランソルトとクーリングジェルを用いたスクラブがひんやりと心地よい。アマンサラは勤続年数の長いスタッフが多いそうで、スパセラピストもみな熟練の技術を持ち合わせている。指先、足裏、足首、ふくらはぎと、どこまでもみほぐしてくれたかわからないが、気付いたら心地よい眠りに付いていた。施術後の足元はすっかり血流がよくなり、羽が生えたように軽くなっていた。 遺跡巡りと併せてもうひとつおすすめしたいアクティビティが、ゲスト専用船「アマンバラ」でのトンレサップ湖サンセットクルーズだ。海岸線まで200km以上離れたシェムリアップだが、琵琶湖の約4倍という広大な湖に出れば、そこはまるで海原。突然、冒険の旅が始まった気分だ。 トンレサップ湖には湖面に浮かぶす水上家屋が2万戸以上あると言われており、そうした水上生活者の居住エリアも見学することができる。商店やレストランだけでなく、学校やお寺もそろっていて、アンコールワットとはまた違った驚きと感動がある。独自の専用船を用意してまで、ローカルの世界をのぞかせてくれるアマンサラ。20代の頃はバックパッカーだった私は、偉そうにも「さすが、旅の醍醐味(だいごみ)がわかっているなぁ」と感服させられたのだった。 アマンサラ https://www.aman.com/ja-jp/resorts/amansara