【社説】不正な株取引 目を覆う職業倫理の欠如
金融庁に出向中の裁判官と東京証券取引所の社員が、金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で証券取引等監視委員会の強制調査を受けたことが明らかになった。 金融庁は金融行政を担い、東証は公平で信頼できる市場を提供するのが使命である。そこに勤務する職員が不正な株取引をしていたとすれば言語道断だ。 事実なら職業倫理の欠如は甚だしい。事実関係を踏まえ厳正に対処し、再発防止策を講じなくてはならない。 インサイダー取引の疑いがある裁判官は4月から金融庁に出向している。間もなく業務を通じて知った未公表情報を基に株取引を始め、監視委が調査を始める8月ごろまで自己名義で取引を繰り返し、利益を得たとみられる。 企画市場局企業開示課の課長補佐として、株式公開買い付け(TΟB)を予定する企業が提出した書類の審査などを担当していた。 TOBは市場の実勢価格より高い値で一定の株を買い集める仕組みだ。公表後は対象企業の株価が上がりやすい。厳格な情報管理が求められるのは当然である。 司法試験に合格し、犯罪者を裁く立場にある裁判官が不正を疑われる行為に及ぶこと自体、理解に苦しむ。 東証の社員は、上場企業が公表する「適時開示」を担当する部署に所属していた。TOBを含め、業務で知った情報を親族に複数回漏らした疑いが持たれている。 親族はその情報を基にした株取引で利益を得たという。本人が取引していなくても、未公表情報を親族に漏らすのは極めて軽率な行為と言わざるを得ない。 TOBや企業の合併・買収(M&A)などの未公表情報を基にした株取引は、市場の公正性を損ね、一般投資家の信頼を失う。強制調査を受けた2人は立場上、インサイダー取引が許されないことは分かっていたはずだ。 取引に不正がないように市場を管理、監督するのが金融庁や東証である。 金融庁は職員に対して、職務上関係する企業の株取引を原則として禁じている。東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)も社員の株取引を原則禁止としているが、家族や親族の取引には規制がない。 現在のルールを検証し、疑惑を繰り返さないようにすべきだ。改めて関係職員、社員に職業倫理を徹底してもらいたい。 JPXの対応には問題がある。監視委の強制調査を受けて、9月下旬に独立社外取締役による調査検証委員会を設置しながら、10月下旬に疑惑が報じられるまで公表しなかった。適時情報開示の姿勢に欠ける。 1月に新たな少額投資非課税制度(NISA)がスタートした。「貯蓄から投資へ」を促す政府として投資家の信頼回復に努める必要がある。
西日本新聞