韓国裁判所、「梨泰院惨事は人災」国家責任認める
一審「国家機関の責任」問う初判決で 大統領室付近での集会対応による龍山警察署の人手不足を指摘
2022年10月29日に起きた梨泰院(イテウォン)転倒圧死惨事に対する「国家機関の責任」を問う初の判決で、一審は警察と龍山区に対して相反する判断を下した。惨事の「予見可能性」と、それに沿った機関の「直接的・具体的注意義務」が警察には明確に存在するが、区にはないと判断したのだ。裁判所は特に、惨事当日の大統領室付近での集会への対応などの「外部環境」を、龍山(ヨンサン)警察署の警察力が不足していた理由としてあげた。イ・イムジェ元龍山警察署長らが裁判の過程で主張した「大統領室の龍山への移転」が惨事に及ぼした影響を一部認めたかたちだ。 ソウル西部地方裁判所は30日、イ元署長ら龍山警察署の関係者に実刑を宣告した。同地裁は「梨泰院一帯の傾斜した狭い路地に数多くの群衆が密集し、歩行者が一方向に傾いたり転んだりして圧迫し合い、命や身体などに深刻な被害が発生する危険性があることを予見した、または予見できた」と判断した。にもかかわらず、警備対策を樹立せず▽情報機能をハロウィーンの現場から排除し▽犯罪の取り締まりのみを重視した治安対策を樹立したと指摘した。警察官職務執行法などに規定される「具体的な注意義務」を警察が怠ったとみなしたのだ。惨事が差し迫っていた時点でも、イ元署長が「無線機をきちんと聴取せず、疎かに対処した」と判断したのだ。 ただし同地裁は、惨事当日に梨泰院に情報・警備機能が存在しなかった背景として「事故当日、管轄内で大規模な集会とデモが予定されていたため、龍山区の治安に責任を負う龍山警察署としては集会・デモに対する備えとハロウィーンの秩序維持をいずれも担うことになり、警察力の実効的な運用にある程度限界があったとみられる」と判断した。大統領室が龍山に移転し、龍山署が集会・デモ対応に集中するという連鎖効果で、ハロウィーンの安全維持に隙が生じた面もあると判断したのだ。 一方、パク・ヒヨン区長ら龍山区の関係者に対して同地裁は、災害安全法令上、自治体には主催者の存在しない大勢の人の集まる行事での事故防止が義務付けられていなかったとして、免罪符を与えた。龍山区には「群衆を分散したり解散させたりする権限を与える規定が存在するとはみなしがたいため」、安全対策や警察への協力要請などの危険に備える義務も区にはないと判断したのだ。 遺族は直ちに反発した。10・29梨泰院惨事遺族協議会などは判決後の声明で、「(龍山区が)警察に混雑の警備要請を行うか、少なくとも区の公務員が路地内の交通整理に当たっていれば、大規模な惨事は発生しなかったはず」だとし、「『龍山区にはなしうることがなかった』という裁判所の判断は、形式的な法論理に埋没し、被告人の無能を無罪の根拠とした」ものだと述べた。 梨泰院惨事2年を1カ月後に控え、「記憶と哀悼の月」を宣言してから裁判を傍聴した遺族たちは、パク・ヒヨン龍山区長に無罪が言い渡された瞬間、裁判所内で涙を流した。遺族協議会のイ・ジョンミン運営委員長(故イ・ジュヨンさんの父親)は判決直後、「無罪は話にならない。この国の司法はどこに存在するのか」と述べながら涙をこらえた。立っていられずに涙を流す遺族を支えていた別の遺族は、「まだ終わったわけではない」とかろうじてつぶやいた。 キム・ガユン、キム・チェウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )