ロンドン・ビジネス・スクール教授アレックス・エドマンズの指摘「DE&IやESGそのものは間違っていないが、やり方は間違っている」
短絡的な測定は危険
多様性は、より複雑なインクルージョンや、ESGの重要な部分である炭素会計(カーボン・アカウンティング)の代わりに強調されがちである。これはOKR(目標設定や目標管理の手法)の台頭や、「測定されるものは改善できる」というマントラに見られるように、測定と関連している。 ところが、エドマンズは問いかける。「測定可能なことしか達成できないのなら、重要なことなのに測定ができないものについてはどうなんでしょう」 彼の指摘する大問題は、ベンチャーキャピタル投資家とESGに取り組む日々のなかで直面するものだ。ベンチャーキャピタル投資家は数値化と測定に執心し、数値化できない問題は存在しないという。しかし、たとえばチーム内の女性の数を数えるのは簡単だが、意思決定にどれだけ関与できているかを知るのは一筋縄ではいかない。 ESGの場合、炭素会計は簡単(かつ、アウトソーシングもできる)だが、小さなスタートアップにおけるグッドガバナンスとはどういうものかを把握するのは至難の業だ。 「このことは、別の文脈でも認められます。四半期の売り上げを重要視すれば、長期的視野を欠くとみなされ、いっそう批判されます。我々は簡単なものにすぐ飛びついてしまいます。そしてその簡単なものは、たいてい測定可能なものです」 ESGとDE&Iを正しく遂行するには、測定だけでは不充分なのだ。「やれそうなところからやっていこう」という考えでは、中期的にも結果を出せないかもしれない。悪魔は細部に宿るもので、定量化や測定ができるものばかりではない。 会計に関して我々はこのことを認めつつあるが、ESGやDE&Iに関してはそうではない。バックラッシュが起こっているいまこそ、改革が急がれる。 スモール・テックからビッグ・テックへと成長するにつれて施策を前進させていく大企業から、我々は学ぶべきことがある。ネットフリックスは、障がいなどさまざまな表現に関する取り組みを、スクリーンの中と外を問わず推し進めている。また、セールスフォースは表現に関して野心的なゴールを設定した。DE&Iについてすべての利害関係者と協力して取り組み、平等実現のためのグループに大人数をさいている。 このように、ニュアンスを失わずに、本当の意味でエビデンスに基づいた意思決定をすることは、批判者を打ち負かすだけでなく、全員によりよい財務結果をもたらしてくれるのだ。
Johannes Lenhard