言葉が見つからないことを肯定したい――映画『きみの色』山田尚子監督×牛尾憲輔が語る創作への思い
劇中のバンド曲を振り返って。“Born Slippy Nuxx”の裏側には
―山田監督は、牛尾さんが作ったバンド曲を聞いてどんなことを感じましたか? 山田:ものすごくポップだなって思いました。私は雨に濡れた犬みたいな曲が好きなので、牛尾さんとバンド曲をやるなら、そういうのもいっぱい出てくるのかなって思ってたんですよ。むしろ、好きを共有しづらいような音楽がもっと出てきてもいいって思っていたので。ちゃんと明るくて、牛尾さんって根が明るいんだなって。新鮮な驚きでした。 ―牛尾さんとしてはどうでしょう? 牛尾:特に“水金~”はそうです。あとの2曲、“反省文 ~善きもの美しきもの真実なるもの~”と“あるく”については、僕は山田さんと同じ音楽のルーツを一部共有していて、ニューウェーブとか、テクノとか、ハウスとか、いわゆるヨーロッパで起きた音楽の革命みたいなものがすごく大好きで。そこの共通項を大手を振ってやりたいなって思ったのは確かです。ちょっとダサい言い方になるかもしれないですけど、もう上の世代に気を遣わなくていいんだってちょっと思ったんです。 ―というと? 牛尾:ほかの世代からしたらダサいものかもしれないけど、僕たちは10代にそれをくらったので、それをてらいなく出したいなっていう気持ちになったような気がします。“Born Slippy Nuxx”を使うのも、きっと上の世代からしたらダサいことだと思うんです。でも僕は『トレインスポッティング』で喰らいましたし。 山田:かっこいい音楽って、世代を越えてかっこいいって信じてるので。今の若い子たちも絶対どこかで見つけるだろうし、そうやってどんどん橋渡しされていくんだろうなと。全然ダサくないと思います。 ―寮でのパーティーのシーンで“Born Slippy Nuxx”がかかりますよね。あのシーケンスにも、そういう思いがあったんですか? 牛尾:『トレインスポッティング』でイギー・ポップを聴いてかっこいいと思ったけど、それは全然、僕らの世代のものではなかったんです。アンダーワールドでさえ、リリースしたときには僕はまだクラブに入れない年齢だった。だから「いいのかなあ、やってしまって」って、周りを見回したくなってしまうんです。でも、ダサいって言われることを気にしない、そうやってかっこいいものを「かっこいい」って言うのって、たぶん、この作品が描いてることなんですよね。 山田:あそこは、牛尾さんが丁寧にあの二人を祝福しているように思いました。 牛尾:そうですよね。10代で一番悪いことをするときには“Born Slippy Nuxx”がかからなきゃいけないんです。