言葉が見つからないことを肯定したい――映画『きみの色』山田尚子監督×牛尾憲輔が語る創作への思い
ギター、オルガン、テルミン、打ち込み……高校生バンドらしくない編成の理由は?
―バンドの曲についてもおうかがいさせてください。まずギター、オルガン、テルミンと打ち込みというスリーピースである。いわゆる典型的な高校生バンドらしくない編成のバンドにした理由はどういうところでしょうか? 牛尾:バンドを僕がやることになったときには、構成が決まっていた気がします。 山田:牛尾さんに相談すればなんとかなりそうだと思ったんだと思います(笑)。 牛尾:僕からすると、ルイ君というワイルドカード、打ち込みができるキャラクターがいれば成り立つというのはあったので。 僕、今回、機材的な考証もさせてもらっているんです。ルイ君は何を持っていて、どういうふうにケーブルをつなげてどうやって鳴らしているかのシステム図も全部つくってある。医者の息子がもらったお年玉で買えるくらいの機材で機材表ができていて。編成に関しては、誰かが明示的に決めたというより、ある程度ぼんやり固まっていったんじゃないかと思います。ドラムがいない、とか。 山田:秘密にできるもの、というのはあったかもしれません。打楽器とかを使ってしまうと秘密にできないので。あとは、ルイ君という男の子が興味を持つだろうという、その回路がつながりそうなところで。 牛尾:「こういう構成で」と山田さんに言われた記憶はないし、かといって、僕が「打ち込みの人とこの人で」みたいに言った記憶もないので。おそらく、キャッチボールのなかで、いつの間にかこうなっていたような気がします。 山田:テルミンと足踏みオルガンというポイントに関しては、ふいごの話をしていて。 ―ふいごの話? 牛尾:コンセプトワークで出てきた言葉を言ってしまうと言葉尻を捉えられてしまうのですごく語弊があるってことは明記してほしいんですが、「インスパイア」という言葉があったんです。「inspire」という言葉は、接頭辞の「in」と「spire」の組み合わせで出来ていて。「inspire」には「中に吹き込む」というような意訳がある。言葉だけ言うとほかにもいろんなものがあるのにそれだけで伝わってしまって本来は避けたいのですが、吹き込むっていうのが作用する場、ふいごが欲しいなと思って。吹き込まなくてはならないもの、そこから足踏みオルガンはいいねって話をしたような気がします。