言葉が見つからないことを肯定したい――映画『きみの色』山田尚子監督×牛尾憲輔が語る創作への思い
コンセプトワークのつくり方は? 唯一無二の「特殊」な関係性から
―過去作でも山田監督と牛尾さんは制作の初期段階で丁寧にコンセプトワークを行なってきたということですが、今回もそういうつくり方だったんでしょうか? 牛尾:はい。今回もそういう回はありました。 ―そこではどういうことを話し合うんですか? 牛尾:そこがさっきの話とつながるところなんですけど、説明できないんです。例えば話の流れが、物理用語からスタートして、関数にいって、ということはこういう絵画だよね、ってことはこの詩だね、という流れで話が飛んでいく。 お互いの感性みたいなものがあるんですけれど、その繋がりの論理性は外から見てわからないだろうから、言葉尻だけ追っていくとよくわかんないことになってしまう。その表面だけ切り取ってしまうとだいぶ誤解を招いてしまうので、言葉で言えないんです。 山田:難しいですね。いろいろな話をするなかで、たぶんお互いが投げたものに対していい意味で勘違いをするんだと思うんです。全部芯まで話し切らないで、ちょうど勘違いできる状態で持って帰るといいますか。 牛尾:それはあるかもしれないですね。 山田:それでお互いが作品を出す、という。すごくいいなと思うのが、お互いが出したものに対して笑わないんです。普段自分はお調子者なんですが、何かつくるときに関しては、笑ったりしないですね。どんなに変なことを言っても、ちゃんとそれを語り合える相手だと思います。 牛尾:わけがわからないことを言っているのに、ハラハラ泣いてたりする。その相手を見ても笑わないし、うむうむ、という感じになる。それは特殊なことかもしれない。僕は自然なことだと思いますが、ほかにあまりそういう相手はいないです。 ―牛尾さんはいろんな劇伴を担当していますが、こういうつくり方は稀ですか? 牛尾:山田さん以外はいないですね。 ―山田監督にとってはどうですか? 山田:お話がしやすいので、牛尾さんとご一緒できてラッキーだなと思います。ロジカルに話すこともできるし、ものすごく感覚的に話しても受け止めていただけるので、とても助かります。牛尾さんとのやりとりに慣れてしまったところがあるので、別の方とお仕事をするときに言葉の使い方を忘れているかもしれません。 牛尾:思い出さなくていいですよ(笑)。