「修行先は出さない」「取材もほとんどお断りしてきた」 東京屈指のラーメン店主が描く理想の円グラフ
日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。今回は亀戸にある名店「麺 ふじさき」の店主・藤﨑みづきさんの愛する名店「Homemade Ramen 麦苗」をご紹介する。 【写真】ふわりと上品ながらダシの分厚さと複合的な旨味がたまらない一杯 JR京浜東北線・大森駅、京急線・大森海岸駅から徒歩7分。この地に『ミシュランガイド東京』のビブグルマンを獲得し続ける東京屈指の名店がある。「Homemade Ramen 麦苗(むぎなえ)」だ。午前9時頃から店頭に出るウェイティングボードには多くの人が集まり、あっという間に一日分の受付が終了する。「食べログ」では3.96点を誇り、東京のラーメン店では堂々の3位に君臨している(2024年12月24日現在)。 店主の深谷明大さんは1979年愛知県名古屋市生まれ。親が二度離婚して何度も引っ越しを重ね、コンプレックスを抱えながら寂しい幼少期を過ごしたという。高校時代は野球に明け暮れ、親がたまに連れて行ってくれた屋台のラーメンや「スガキヤ」のラーメンが好きだった。ラーメンは温かくおいしく、連れて行ってもらうたびにうれしかった記憶がある。 高校卒業後は、大学進学をあきらめ、ある上場企業に就職した。だが仕事に興味を持てず、取引先企業の担当がまだ若く空っぽの自分に頭を下げる姿に違和感を覚え、悩んだという。 これから先が全く想像できない。そんななか、深谷さんはとある小説に出会う。作家の沢木耕太郎が軌道に乗っていたルポライターの仕事をすべて投げ出し、香港へと旅立ち、陸路2万キロをバスでロンドンまで目指す旅を描いた『深夜特急』だ。深谷さんはこの『深夜特急』に憧れ、自分のやりたいことに挑戦しようと立ち上がる。親に相談すると「好きなことをやればいい」と背中を押してくれた。 当時、映画が好きだった深谷さんは、川崎にある映画の専門学校に行くことを決めた。上京し、世田谷にある叔母の家に転がり込み、バイト生活をしながら入学の準備をする。