「そんな非常識な人いるんだ」 救急車要請でクレーム、「バカ」暴言も…救急救命士が明かす壮絶現場
人命救助のプロが激白 「冬に増える病態」の注意点も
活動中の救急車に鳴らされるクラクション――。救急救命の現場の過酷さが増している。ハラスメント被害だけでなく、“タクシー代わり”感覚での119番といった緊急性のない救急要請が後を絶たず、医療・救急救命の従事者は頭を悩ませている。年末年始を控え、飲酒・外食の機会が増えて思わぬ体調不良や事故に見舞われたり、寒さによる体調悪化のリスクも高まる。医療・救急の当事者にとっても、より一層に気を抜けない時期になってくる。消防官として20年以上のキャリアを持つ救急救命士に、現場の知られざる実態や深刻な課題について聞いた。 【写真】「冬山なめんなよ」 指先にちぎれるような激痛…実際の光景 「挙げればキリがないですね……」。中部地方の都市で勤務している救急救命士は、市民や患者からのクレーム・要求が増えている状況にため息を漏らす。救急救命士の国家資格を取得して12年。現在の階級は「消防司令補」で、救急隊長の役職を担っている。人命救助のプロだ。 救急車へのクラクションのほか、「病院を探そうとすると、○○病院はこの前対応が悪かったから嫌だとごねる」「希望の病院じゃないなら行かないと言って歩いて降りていく」「深夜、病院に行きたいけどタクシーに乗るお金がないからと言って救急要請」「自分で病院に来たものの、救急外来が混んでいて待ち時間が長いからと病院の前で救急要請」「話し相手が欲しいからと救急要請」「笑いながら動画撮影してくる酔っ払い」「酔っ払って寝ているところを起こすといきなり殴りかかってくる」。それに、「バカなの? などの暴言を吐く」……。実例を聞くと、暴力行為は言語道断で、閉口してしまう内容ばかりだ。 この救急救命士は、「たたら★救急救命士(@QQpickm)」のXアカウントで、SNSを通して問題提起を行っている。クラクション行為については「軽症ならば救急車を動かすこともできますが重症者では応急処置に忙殺されて動かすことはできません。患者が家族でも同じことするんですか?」と訴えた。切々とした投稿は大きな反響を呼び、「なんで そんな日本になったんやろ」「信じられない」「そんな非常識な人いるんだ…」「どういう神経しとるんやろね」など、あ然とする人が続出している。 救急の現場は人手不足も喫緊の課題だ。不要不急な救急車の出動を減らすことができれば、本当に必要な救急要請のケースに、より迅速に人的リソースを確保して対応でき、従事者の労働環境の向上にも直結する。 「高齢化社会への構造変化に伴って増え続ける救急要請に対応するためには救急隊を増やすことが一番なのですが、昨今は人員を増やすことは認められないことがほとんどです。ですので内部で人員シフトをやりくりして救急隊を増やしていますが、もちろん全体の職員数が増えるわけではないので、希望の休みを取ることもままならない状況です」。ワークライフバランスどころか、むしろ限界に近付いているという。 救急医療体制を維持するための取り組みも進められている。茨城県では2024年12月から、救急車要請を巡って緊急性がない搬送だったと認められた場合、患者から費用を徴収できる制度をスタートさせた。この費用は、紹介状を持たずに大病院を受診する場合に患者が支払う「選定療養費」。対象の大病院に救急搬送されたケースで、緊急性が認められるかどうか、選定療養費の徴収を判断するというシステムだ。なお、救急車の有料化ではない。事態解消の一手として注目されている。 この救急救命士は「今できる効果的な対策としては全国で取り入れつつある、軽症者に対しての選定療養費請求とその広報だと思います。(救急搬送されて入院に至らなかった軽症者は選定療養費の対象となる)三重県松阪市では全体の約2割の救急要請が減少したとも聞いており、大きな予算をかけることなく救急需要を抑える素晴らしい施策だと感じます」と実感を込める。