働く人は誰もが知るべき「比較優位」という重要概念 交易が経済発展をもたらしたのには理由がある
私たちが生きている、かつてないほど豊かなこの現代社会を可能にしたのは、経済の力だ。そして、文明の歴史は経済発展の歴史でもある。では、その経済を、経済学者たちはどのように考えてきたのか。現代の経済学者は何に取り組んでいるのだろうか。 農耕革命から人工知能まで、経済や経済学の発展の歴史をわかりやすく解説する、2024年12月に刊行された『読みだしたら止まらない 超凝縮 人類と経済学全史』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。 【写真で見る】2023年ノーベル経済学賞受賞者絶賛! 経済学が何倍も面白くなる一冊
■貨幣の持つ3つの機能 多くの古代社会で生まれた発明品のひとつに、貨幣がある。貨幣は次の3つの機能を持つ。 (1)さまざまな品物の価値をいい表す「尺度」としての機能。貨幣があれば、牛2頭には斧1本の価値があるとはいわず、どちらも銀貨1枚の価値があるといえる。 (2)富を腐ったり、死んだりしない形で蓄えておける、価値の「保存」手段としての機能。 (3)「交換」の手段としての機能。貨幣を使えば、牛2頭を買いたいが、それと交換する斧を持っていないという人どうしのあいだでも、容易に商取引ができる。
貨幣はさまざまな形態で誕生した。古代ギリシャでは、前700年から前600年頃、のちにドラクマ(「ひとつかみの」の意)と呼ばれるようになる硬貨が発行された。 古代オリンピックの勝者には、オリーブの葉で編まれた冠のほかに、最高1000ドラクマの賞金が贈られたという。 ローマで貨幣が発行されるようになったのはそれより遅いが、前269年、ユーノー・モネータ神殿の近くで銀貨の鋳造が始まると、その銀貨には「モネータ」の文字が刻まれ、それが今の「マネー」の語源になった。
硬貨は小袋に入れて持ち歩くことができ、日々の買い物の支払いにとても便利だった。 拡大を続けるローマ帝国の領土には、ローマの硬貨があまねく行き渡った。人々は硬貨に刻まれた皇帝の肖像を見て初めて、新しい皇帝の即位を知るということもあった。 とはいえ、貨幣の形態は硬貨だけではない。ミクロネシアのヤップ島では、加工した石が貨幣(石貨)として使われた。この石貨の大きさはいろいろで、最大のものは直径が3.6メートルもあった。