働く人は誰もが知るべき「比較優位」という重要概念 交易が経済発展をもたらしたのには理由がある
所有者が代わっても、石貨を移動することはなかった。石貨はいつも同じ場所に置いておき、代わりに、所有者の変更が島の全員に伝えられた。 したがって、この大きな石の貨幣は商取引には不便だったが、必ずしも特殊な方法というわけではない。 現代でも、中央銀行の金庫室に金が保管されていることがある。その金は売却されても、たいていは電子台帳に変更が加えられるだけで、金塊が運び出されたりはしない。ヤップ島の人たちはこれを聞いたら、きっと自分たちのやり方と同じだと思うだろう。
石貨であれ、硬貨であれ、この時代の貨幣に共通するのは、貨幣そのものに価値があることだった。商人が約束手形を発行する例もあったが、貨幣には貴重な素材が使われていた。 それが変わったのは、西暦1000年頃、中国で世界初の紙の貨幣が発行されたときだ。その貨幣はそれ自体に価値はないが、価値を保証されている紙片だった。 ■交易の増大と「比較優位」 経済的な発展のもうひとつの側面は、地域間の交易の増大だ。社会内の分業化は新しい商品(服や道具など)の生産につながった。
これが次に社会間の分業化につながり、それが交易の土台になった。相対的に優れたモノやサービスを提供できれば、その社会は交易から利益を上げることができる。 なぜここで単に「優れた」といわず、「相対的に優れた」というのか、気になったかたもいるだろう。このことを説明するため、ここでまた分業化の話に戻ろう。 例えば、村でいちばん腕のいい陶工が、パン職人としても村でいちばん腕がよかったとしよう。 この人物が村で2番めに腕のいい陶工よりは10倍優秀だが、村で2番めに腕のいいパン職人よりは2倍しか優秀ではない場合を想像してほしい。
そのような場合、村全体の生産量が最も増えるのは、この人物がもっぱら陶器を作ることに専念して、パンはほかのパン職人から買うときなのだ。 ■シルクロード交易における「比較優位」 この陶工についていえることは、国や都市や地域にも当てはまる。 古代中国では絹と金のどちらも古代ローマより安く生産できたが、例えば、絹の生産効率の高さはローマの10倍、金の生産効率の高さはわずか2倍だったとしよう。その場合、中国の立場では、絹を輸出して、金を輸入するのが理にかなっている。