「完全にゲームが変わった」 指導者の暗殺に怒ったイランのイスラエル攻撃で、これから何が“始まる”のか
■「大きな賭け」に出たイラン イランの外交・軍事戦略の根底にあるのは「戦略的な忍耐」である。西側諸国による経済制裁下にあるイランと、アメリカと強固な同盟関係にあるイスラエルを近代的な軍事装備の面で比較すれば、その差は歴然だ。 イランは、イスラエルと真正面から衝突するのは得策ではないとの判断の下、匿名性の高い攻撃や民兵勢力を使った「非対称戦争」を仕掛け、4月の直接攻撃以降もこうした枠組みの中での戦いに収めようと努めてきた。
しかし、耐え忍んでいる間にイランは対イスラエル戦略の要であるヒズボラの指導者を失い、最大20万発といわれたヒズボラのロケット弾や、ミサイルの約半数がイスラエルにより無力化されたと伝えられる。 ヒズボラやハマスなど対イスラエル抵抗戦線の首領であるイランは、メンツを潰されたことから自制してきた報復を実施せざるを得なくなるとともに、ヒズボラの弱体化を招いているイスラエルの攻勢に歯止めを掛けるための抑止力の確保を狙い、大きな賭けに出た格好だ。
だが、イスラエルの決意も固い。ガザ戦争でパレスチナ人の死者が4万人を超し、ガザ地区が壊滅的な被害を受ける中、イスラエルは相手が屈服するまで大規模破壊を伴う軍事力を段階的に増大させる戦略を採用している。国際世論を重視せず、軍事力行使のハードルは大幅に下がっている。 イスラエルは先月、ロケット弾やミサイルによる攻撃を続けるヒズボラに対し、避難生活を余儀なくされている6万人を超すイスラエル国民の自宅帰還をガザ戦争の目標に加えることを閣議決定している。
「テロの首謀者」であるナスララ師を殺害するのは当然との認識で、イスラエルはイランが報復してくるのは自国の安全保障問題への直接的な介入と受け止めている。 これまではイランがヒズボラを支援して間接的な形でイスラエルと対決してきたが、イランがイスラエルに報復攻撃を行ったことにより、ゲームのルールは完全に変わった。 ■イスラエルは石油施設を標的にする可能性 ただ、イランとしてはこれ以上のイスラエルの横暴を許さないためにも抑止的な効果を狙ったもので、イスラエルと全面対決する構えはないとのメッセージを送っている。イランのアラグチ外相はXへの投稿で、「イスラエルがさらなる報復を決断しなければ、われわれはこれ以上の行動をしない」と牽制している。