最古の光る生物は5億4000万年前のサンゴと判明、約2億年記録更新、「ここまで古いとは」
生物が目をもちはじめた「カンブリア爆発」の時期に一致、「偶然とは思えません」
ホタル、藻類、イカなど、光を発する不思議な生きものは数多く存在する。生物発光というこの仕組みは、ただ謎めいた美しさを醸し出すだけではない。自然界で少なくとも100回は独自の進化を遂げてきた能力で、獲物をおびき寄せる、敵を驚かせる、求愛行動に用いるなど、さまざまな使いみちがある。では、生物がはじめて闇の中で輝く能力を獲得したのは、いったいいつなのだろうか? 【動画】新発見、群れるために光る魚、まるで映画 これまで、生物発光したもっとも古い生きものは2億6700万年前に生息していた貝虫(かいむし、小型の海洋甲殻類)の一種とされてきた。ところが、2024年4月24日付けの学術誌「英国王立協会紀要B(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された論文によると、八放サンゴという深海生物のうち、よく発光するものを調べた結果、その共通の祖先が5億4000万年前の発光生物であることがわかった。進化が加速し、現存する主要な動物のグループが現れた「カンブリア爆発」の時期だ。 「たいへん刺激的で、うれしい驚きでした」。米フロリダ国際大学の深海生物学者で、今回の研究の筆頭著者であるダニエル・デレオ氏は、そう話す。 「生物発光と一般的な光シグナル伝達は、証拠が残されている最古のコミュニケーション形態だったかもしれません。これは予想外の結果でした」 つまり、複雑な生物が誕生したころから、暗い海にまたたく光が存在していたことになる。
ワナにも、合図にも、クラクションにも
生物発光は熱を出さずに光る化学反応で、ルシフェリンという光る物質を必要とする。自力でルシフェリンを作れる生物もいるが、共生生物から吸収したり、外から摂取したりする生物もいる。体内にルシフェリンを含む微生物や藻類を住ませている動物もいる。しかし、ルシフェリンの取得方法によらず、触媒(通常はルシフェラーゼ)とセットになって発光する。光の色は、ルシフェリン分子の配列によって異なる。 発光する生物は、陸上にもさまざまなものがいるが、圧倒的に海中に多い。海洋動物の4分の3は、何らかの形で光を発し、しかも驚くほど多彩だ。 「とても多様で、変化に富んでいます」とデレオ氏は言う。繁殖相手を探していることを示すために光るものもいる。腹をすかせた捕食者が、獲物の目をくらませて動きを止めるために使うこともある。獲物をおびき寄せることもできるし、エサを探すサーチライトにもなる。 カムフラージュ(下腹部を光らせて、輝く海面に溶け込むなど)や、おとり(発光する体の一部を切り離して、捕食者から逃れるなど)のように、防衛手段として使うこともできる。 深海にすむ甲殻類の中には、おもしろい方法で身を守ろうとするものもいる。「驚くと、光る嘔吐物を吐き出すのです」とデレオ氏は言う。 八放サンゴも闇の中で光を発することができる。一見したところ、群体となって固いサンゴ礁を作るおなじみのサンゴに似ているが、八放サンゴは柔軟な構造を持ち、ほかにもいくつかの形態的な特徴がある。 発光の目的については、諸説ある。八放サンゴは深海で移動せずに生きているが、光を使ってエサとなる無脊椎動物をおびき寄せている可能性がある。特によく知られているのは、つつかれると光ることだ。捕食者を驚かせるためかもしれない。 「これは防犯装置仮説と呼ばれています。生物発光によって騒ぎを起こすことで、捕食者の捕食者を呼び寄せようとするのです」と、英サウサンプトン大学の海洋生態学者で、今回の研究には関与していないジョン・コプリー氏は言う。