子供“無料招待”から見る日本サッカー現在地 ドイツでも類似例…未来に向けたクラブの努力【現地発コラム】
無料招待をビジネスの好機と捉える独クラブも
一方で、すでにサッカー文化が地域に根づいているドイツでは愛するクラブを支える名目で家族全員がシーズンチケットを保有しているケースもある。 筆者の知人であるアイントラハト・フランクフルトのサポーターは幼少の頃から父親にシーズンチケットを与えられ、それを40年以上保有しているという。未成年の時は父親が支払っていたそのチケット料は、現在成人になった知人が受け継ぐ形で毎シーズン支払っている。彼曰く、「このサイクルは僕の息子、孫へと続いていくんだろうね」とのこと。これはチケット料を支払うことはクラブを支援することと同義という観点に基づいており、「子供用のチケットであっても(保護者が)座席の料金を支払うのは当然のこと」という考えが根付いている興味深い事象だ。 ドイツは観衆の無料招待をビジネスチャンス、収益拡大の好機と捉える向きもある。田中碧や内野貴史、アペルカンプ真大といった日本人選手が在籍するブンデスリーガ2部のフォルトナ・デュッセルドルフ(以下、フォルトナ)は、2023-2024シーズンのホームゲーム3試合を対象に全席種無料という大胆な施策を打ち出した。 この施策を行う前シーズンのフォルトナは、ホームスタジアム「メルクール・シュピール=アレーナ」の収容5万4600人に対して平均観客動員数2万9378人と、ブンデスリーガ2部で4位の動員数を記録した。これは決して少ない数字ではないが、クラブは「すべての人にフォルトナを!」というスローガンの下、シーズンあたり700万ユーロ(約12億円)から800万ユーロ(約13億7000万)と言われる総収入のうち3試合分のチケット収入を各クラブスポンサーが負担して多くの観衆を引き寄せようとした。 スタジアムに多くの観衆が詰めかけることによってグッズ収入などのマーチャンダイジング面に好影響を及ぼし、それを支援するクラブスポンサーは宣伝価値を見出す。フォルトナは現在、前シーズンのホームゲーム3試合を無料にした効果と収益見通しなどを精査・検証している最中だ。もし良好な影響が見られたと判断された場合は2024-2025シーズンのホームゲーム全試合を無料にする可能性があることをほのめかしている。ちなみにフォルトナは前シーズンのブンデスリーガ2部で3位に入り、1部16位のVfBボーフムと入れ替え戦を戦ったもののPK戦の末に敗れ、惜しくも今季の1部昇格を逃している。