果てとチーク『害悪』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
憧れの演劇チラシを作るという夢がかなった
中井 今後、紙のチラシはどうなっていくと思いますか? 升味 座・高円寺さんもSDGsの取り組みとしてチラシ束を作らず、置きチラシのみにしていたりするんです。私自身、捨てられていくチラシを見ると、つらいなという思いもある。じゃあ画像でSNSのみで告知すればいいかというと、Xの規約が、アップした画像やテキストを、X側が著作権フリーでAI学習等に使えることが、より明示的な形で改訂されるという話もあって。本当に皆の権利を守りたいと思ったら、いったいどこで告知をすればいいの? と……。やっぱりいまだに小劇場界ではチラシがいちばん安定して届く媒体なんですよね。告知については毎回頭を悩ませつつ、答えが出ないままです。 前田 私は学生の頃から演劇ポスターやチラシに憧れていました。しかもこのふたりとできたというのが、私にとっては夢がかなったような感覚なんです。だから、紙媒体はやり続けたいという思いはあります。 三崎 私も手元に置いておきたいので、紙のチラシがなくなるのはさみしい。でも紙がもったいないなとは思うので、作るからには大事に作らなくては、と思っています。 中井 チラシって公演日が過ぎてしまえば役割が終わってしまう、不思議な媒体ですよね。でも、こうして連載でお話を伺っていると、他の広告とは違って作り手のクリエイティビティを試せる場でもあるのが面白いなと。 前田 私のように「こんなふうに作ってみたい」という気持ちがある側としては、そこを快く受け入れてくださって、柔軟に作れるチラシという媒体は貴重ですね。 三崎 私も同じくです。私はふだん退廃的な感じのデザインをすることが多いんですが、今回は前田さんとの長い付き合いのおかげで少しハズしても成り立つ、むしろハズしたほうがいいと思えて、やりやすかったです。表側の文字も、より一般的なさっぱりしたフォントを使ったものも出したんですが、升味さんが私が使いたかったクセのある方を選んでくれたので「解釈、合ってた!」と思いました。 升味 大正解でした。 中井 作品内でも、それぞれにいまを生きている女の人たちがどこかで繋がったり離れたりしていますが、そんな作品のチラシを作る皆さんの間でも世界観がうまく共有されてこのチラシが生まれたのだなということが伝わってきました。 取材・文:釣木文恵 撮影:源賀津己 < 公演情報 > 座・高円寺 秋の劇場 20 日本劇作家協会プログラム 果てとチーク第 8 回本公演『害悪』 作・演出:升味加耀 出演: 川村瑞樹 / 鄭亜美(青年団) /中島有紀乃/能島瑞穂(青年団) /宝保里実(コンプソンズ) /まりあ/李そじん 日程:2024年11月22日(金)~11月24日(日) 会場:座・高円寺1(東京) 〈 プロフィール 〉 升味加耀(ますみ・かよ) 1994年、東京都出身。早稲田大学法学部卒。2016年、留学先のベルリンにて、演劇ユニット・果てとチークを旗揚げ。以降、全ユニット作品の劇作・演出を担当。19年、『害悪』が令和元年度北海道戯曲賞最終候補作となる。23年、『はやくぜんぶおわってしまえ』が第29回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作となる。24年、『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』が第68回岸田國士戯曲賞最終候補作となる。公益財団法人セゾン文化財団2024年度フェロー。 前田豆コ(まえだ・まめこ) 1993年、東京都出身。2020年からイラストレーター・アーティストとして活動を始める。幼少の頃から習っていたダンスの影響で身体を使った表現に関心を持ち、身体の伸縮によって生まれる張りやシワの美しさに着目したふくよかな体型の人物を描いている。開放的なキャラクターたちがユーモラスに描かれる作品に海外からのオファーも急増。韓国でのアートフェア出展が決定するなど、その活躍を世界へと広げている。 三崎了(みさき・りょう) 静岡県出身。グラフィックデザイナー / アートディレクター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。ポスター、チラシデザインのほか、CDジャケットのデザイン、本の装丁など、音楽・演劇・映画といった幅広い分野のデザインを手掛ける。22年、PANTA(頭腦警察)「BACTERIA 2」のジャケットデザインにて挿画を担当。23年渋谷・井の頭線改札アプリ「ブラッククローバーモバイル 魔法帝への道」サイネージ用装飾デザインを担当。 中井美穂(なかい・みほ) 1965年、東京都出身(ロサンゼルス生まれ)。日大芸術学部卒業後、1987~1995年、フジテレビのアナウンサーとして活躍。1997年から2022年まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めたほか、「鶴瓶のスジナシ」(TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専門チャンネル)にレギュラー出演。舞台への造詣が深く、2013年より2023年度まで読売演劇大賞選考委員を務めた。