独自に築き上げた技術で、長崎べっ甲の歴史をつなぐ『安龍工房』
若い世代でも手に取りやすい商品を提供したい
ー「原材料がない」というお話もありましたが、その他にもべっ甲の業界に課題はありますか? 佳美: 特に水杢のある原材料が高騰しているので、「水杢の商品が欲しい」というお客さんがいても、なかなか行き渡らなくなってきていて。需要と供給のバランスが取れなくなってきています。 慎二: また、職人不足の問題もありますね。原材料はあと10年ほどは持ちますが、10年経つと組合にいる職人さんの方もご高齢者となります。そのため、今では職人不足も心配され始めているんです。 販売だけを行っている業者は、原材料不足に対しての危機感は薄かったのですが、職人がいなくなってきたことで慌て始めています。 ー技術を継承することは、やはり難しいことなのでしょうか。 佳美: 昔は、暖簾分けできないようにすべて分業していたんです。そのため、最初から最後まで一人でできる職人さんが少なく、技術を一通り継承することは難しいですね。 また、表現したい柄や作りたい商品に合わせて原材料の使い方を工夫するのにも技術が必要ですが、さらに今はそれを限られた原材料の中で行わなければならないので、ますます難しい技術になってきています。 慎二: お子さんが「継ぎたい」と言ってくれても、「原材料不足のことを考えると、先が厳しい業界にわざわざ入れるのはどうか」と悩んでしまう職人さんも多いですね。 ー最後に、今後の展望を教えてください。 佳美: 原材料がなくなるまで、そして体力が続く限りは製造を続けていきたいと思っています。弊社の製造技術を必要としてくれている方がいらっしゃるのなら、父が残してくれた技術、慎二さんが確立した技術を生かしていきたいです。ただ、うちだけの技法としてつないできた技術を、外に出すのか出さないのかは悩みどころですね。 また、私たちは、「若い人たちにべっ甲製品のよさを理解し、着用してほしい」と思っているので、若い人たち向けの商品作りにも力を入れています。 ストラップなど比較的安価で、より手に取りやすいような商品も提供しているので、ぜひ見てもらえるとうれしいです。 今後は、高価で使うのをためらってしまうような商品ではなく、安くて日常的に使いやすい商品を増やしていきたいと考えています。