独自に築き上げた技術で、長崎べっ甲の歴史をつなぐ『安龍工房』
ー事業者が減少している理由には、どのような背景があるのでしょうか。 慎二: 理由はやはり材料不足です。ワシントン条約で輸入が制限されており、その影響を受けて原材料が手に入れられなくなっているんです。現在使用している原材料は、規制される前に輸入していたものになります。 ウミガメのお肉は高タンパク質でコラーゲンが豊富なので、海外では食べている地域もありますが、日本では甲羅だけを輸入していました。 しかし、規制がかかって現在は輸入できない状態に。それを打破するために石垣島でウミガメの養殖事業がスタートしたのですが、製品として使うのはまだまだ難しい状況です。 天然のものと違い、養殖のウミガメの甲羅は天然の物より柔く、熱加工が難しい点があります。養殖をするのにも設備等の維持費などお金がかかるので、ウミガメ1匹あたりの値段も高くなっています。
ー原材料は、もうなくなってしまいそうな状況なのでしょうか。 慎二: 長崎の分としては、今後10年くらいは持つと思います。実は、長崎に大きなべっ甲業者があったのですが、実質的に廃業をされて。その業者が持っていた原材料を組合が買い上げて、貯蓄しているんです。 また、日本のべっ甲は長崎と大阪、そして東京(江戸べっ甲)が三大産地で、年に数回、業者同士でお互いに使わない原材料を売り買いする「競売会」も行っています。せりなので高くつきますが、現在のトレンドや価格帯もよく分かるいい機会です。
べっ甲製品は、身につけているうちに身体になじんでいく
ーべっ甲製品の製造工程を教えてください。 慎二: 主な製造工程は、商品に合う甲羅を選ぶ「選定」、ノコで甲羅を切り取る「切出し」、厚さを出す「地作り」、貼り合わせる「圧着」、細かいデザインを彫る「整形」、ツヤを出すために行う「研磨」です。 厚みのあるべっ甲商品を作る場合は、地作りの際に甲羅を何枚か重ねて圧着して使います。接着剤を使わなくても、ウミガメの甲羅は熱と水分と圧力でくっつく性質があるので、それを生かしているんです。甲羅を曲げるときにも、熱で柔らかくしています。べっ甲の曲げを行うときにお湯を使って曲げているんです。 また、甲羅の部位や厚みによって、強度が違います。「このように切り抜いた方が原材料を無駄なく利用できるな」ということもあるので、割れないように使用する道具を使い分けする必要があります。