次世代EVの投入計画も公開 ホンダが2030年へ向けたEV事業の中期計画を発表
目指すはEV事業の自立化と利益率向上
本田技研工業は2024年5月16日、東京・青山の本社において記者会見を実施。三部敏宏(みべとしひろ)代表取締役社長が、カーボンニュートラルの実現へ向けた取り組みの進捗(しんちょく)を説明した。 【写真】次世代EV「Honda 0」シリーズの2モデルを詳しくチェック ホンダでは「2050年カーボンニュートラルの実現」を目標に、環境負荷低減の試作に取り組んでおり、特に二輪・四輪などの小型モビリティーについては、電気自動車(EV)がもっとも有効なソリューションであるとして開発を推進。2030年までに、グローバルでの EVおよび燃料電池車の販売比率を40%に高め、年間200万台以上のEVを生産する計画を立てている。 今回の記者会見では、まずはこの目標へ向けた3つの施作「ホンダならではの魅力的な EV の投入」「バッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築」「生産技術・工場の進化」について解説がなされた。 【ホンダならではの魅力的なEVの投入】 ホンダでは2026年をめどに、「“Thin, Light, and Wise.(薄く、軽く、賢く)”」をコンセプトとした新しいEVシリーズ「Honda 0」を導入するとしている。新開発の小型e-Axleや超薄型バッテリーパックなどからなる、中・大型EV専用プラットフォームの採用により、他社比で10%以上の低全高化と同10%のショートオーバーハング化を実現。ボディー骨格の重量軽減や、軽量・薄型化した新型パワーユニットの採用により、従来比で約100kgの軽量化も果たし、走りにも居住性にも優れるEVを実現するとしている。 また車両を構成するE&E(電気・電子)アーキテクチャーや、車両を統合制御するビークルOS、アプリケーションも独自開発。搭載されるSoC(System on Chip)半導体についても、高性能化と省電力化を同時に実現するなど、ホンダ独自のカスタマイズを施すとしている。また2020年代後半に投入するモデルでは、クルマの各システムを制御する複数のECUを統合・集約。クルマのすべてをひとつのコアECUで制御する、セントラルアーキテクチャー型を採用するという。 Honda 0の車両展開については、2026年に北米で導入予定の「SALOON(サルーン)」を皮切りに、同年のうちに中型SUVやエントリーSUVも投入。その後も3列シートの大型SUV(2027年)、コンパクトSUV(2028年)、スモールSUV(2029年)、コンパクトセダン(2030年)を導入し、2030年までに全世界で7モデルの展開を実現すると発表した。 またこれとは別に、急速にEVシフトが進む中国では、既存の「e:N」ブランドのモデルに加え、新しいEVブランド「Ye」のモデルを随時導入し、2025年までに10モデルのラインナップを構築。2035年までに全モデルをEV化するとしている。 いっぽう日本では、2024年秋発売予定の軽商用EV「N-VAN e:」を皮切りに、2025年には軽乗用EVを、2026 年には「操る楽しさを際立たせた」という小型EVを導入。ユニークなのが、規格化された脱着可搬式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」(以下、MPP)を用いたモビリティーの導入計画で、2024年に2個のMPPで走行する二輪車を、2025年度中に4個のMPPで走行するマイクロモビリティーを導入。それ以降もMPPで走るバンなどを上市するとしている。 【バッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築】 EVのコア部品であるバッテリーを中心に、長期視点で高い競争力を確保するために段階的にバリューチェーンの構築を図るとしている。発表されたロードマップは以下のとおり。 ●EV黎明(れいめい)期:2020 年代前半 基本的にホンダは車両の開発に専念。地域ごとに液体型リチウムイオンバッテリーの外部パートナーシップを強化し、必要な分のバッテリーを、コストを抑制しながら安定的に調達する。 ●EV移行期:2020 年代中盤 パートナー企業との合弁によるバッテリー生産を開始。米国では2025年にLGエナジーソリューションとの合弁による工場が稼働し、年間40GWhのバッテリーを生産する。高密度の軽量・小型のバッテリーパックは、Honda 0シリーズのモデルに搭載される予定だ。またこの時期には、車両の生産にとどまらず、充電サービス、エネルギーサービス、リユース/リサイクルといったライフサイクルビジネスへも事業領域を拡大する。 ●EV普及期:2020 年代後半以降 事業領域をさらに拡大し、原材料の調達から完成車生産、バッテリーの2次利用、リサイクルまでを含む、バッテリーを中心としたEVの垂直統合型バリューチェーンを構築する。カナダでは、GSユアサと共同開発したバッテリーの自前生産を開始。主要部材についてもカナダで調達する予定で、正極材はPOSCO Future Mと、セパレーターは旭化成との合弁による新工場で生産。自前化を進めていく。 このバリューチェーンの実現により、2030年には北米で調達するバッテリーのコストを現行のバッテリー比で20%以上削減するとしている。 【生産技術・工場の進化】 2020年代の半ばまでは、既存の生産設備を最大限活用したICE(エンジン車)とEVの混流生産で対応。先進技術を着実に取り込むことで、将来のEV専用工場での高効率な生産体質の構築につなげていくとしている。導入を計画している新技術は、以下のとおり。 ●メガキャスト 米国オハイオ州アンナ工場に新設するバッテリーケースの製造ラインに、6000tクラスの高圧ダイキャストマシン、メガキャストを導入。60を超える構成部品を5部品に減らし、摩擦攪拌(かくはん)接合などの技術と組み合わせることで、投資の抑制と生産効率の向上を図る。すでに栃木の生産技術の研究拠点には、日本で初となる6000tクラスのメガキャストマシンを導入しており、量産性の検証を進めている。この技術は、まずはバッテリーケースから導入される予定だが、将来的には大物アルミ鋳造のボディー骨格部品にも適用を拡大していく。 ●フレックスセル生産システム バッテリーパックの組み立てラインに、クルマの製品機能に応じてモジュール化した部品構成とセル生産方式を組み合わせた、独自の「フレックスセル生産システム」を導入。生産機種の変更・生産量の変動にフレキシブルに対応できるようにする。 ●デジタルツイン 現実の生産ラインの状況を常時サイバー空間で再現する「デジタルツイン」を活用。工場への部品供給や、生産量・スピードといった生産効率を最適化し、市場のニーズに合わせてタイムリーに商品を供給する。 上述のフレックス生産とデジタルツインについては、バッテリーパックの製造ラインだけではなく、将来的にはEV生産の全ラインに適用・展開。最終的には2028年稼働予定のカナダのEV専用工場において完成形を迎え、世界トップレベルの生産効率を実現することで、従来の混流生産ラインと比較して約35%の生産コスト削減を実現するとしている。 このほかにも、商品・調達・生産のみにとどまらず、商品の企画からアフターサービスまでのオペレーションを一括してソフトウエアで管理。市場のニーズに最適化された商品を最速で提供するなど、EV市場の激しい変化に迅速かつ柔軟に対応できる体制を構築していくことも紹介された。 ホンダでは、これらの商品ラインナップの強化、包括的バリューチェーンの構築、生産技術の進化により、2030年にEV事業の売上高営業利益率(ROS)5%を達成。EV事業の自立化へ向けて、さらなる利益率向上を図っていくとしている。 これらEVの研究開発・導入などの計画に加え、今回の記者会見ではハイブリッド車の展開についても言及があった。 具体的には、2モーター方式のハイブリッドシステム「e:HEV」やプラットフォームを刷新。e:HEVの軽量・高効率化、プラットフォーム効率化・共用化により、より優れた燃費性能と上質で爽快な走りを実現するという。 またEV開発で得た技術をハイブリッド車にフィードバック。EVに搭載するモーターを活用した電動四駆の採用により、機械式四駆より大きな最大駆動力と、高応答・高精度な駆動力配分制御が可能になるという。またモーションマネジメントシステムとの協調制御により、車両の挙動を安定させながら運動性能を引き出し、安心と運転の楽しさを両立も実現するとしている。 これらの電動化戦略の実現に向け、ホンダは2030年度までの10年で約10兆円の資源投入を計画していることも明らかにされた。 内訳は以下の通り。 ●ソフトウェアディファインドモビリティーの実現に向けた研究開発支出として約2兆円 ●米国、カナダ、日本などでのEVの包括的バリューチェーン構築にかかる投資・出資などで約2兆円 ●次世代のEV専用工場を含む生産領域、二輪電動化関連、四輪新機種開発支出、金型投資など、ものづくり関連費用として約6兆円(開発支出:3兆円、投資・出資:3兆円) 投資のタイミングについては、EV の市場への浸透度を見定めながら、適切かつ柔軟に対応していくとしている。 (webCG)
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