近年は中東で目立つ日本人誘拐・人質事件 早稲田塾講師・坂東太郎のよくわかる時事用語
発生国との難しい関係
イスラム過激派など反体制グループに誘拐されたら日本としては発生国との関係を第一に重んじなければなりません。それが事件をより複雑化させる場合もあります。 例えば1999年に発生した中央アジア・キルギスでの日本人技師誘拐事件。隣国の「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」に誘拐されました。IMUが「外国人は来るな」と宣言していた一帯に立ち入ったところ拘束されたようです。どうやら身代金要求などなかったにも関わらず支払い(日本政府は否定)、それをキルギス政権に渡っていたという疑惑がいまだあるのです。頼るしかない発生国の政府が腐っていたら……も考えなければならないと痛感させられた出来事です。
2013年のアルジェリアの「日揮」襲撃事件は別の側面で発生国との付き合い方に思いを致す必要を感じさせました。日揮が建設した天然ガス関連施設をイスラム過激派が襲撃しました。犯行グループは同年に隣国マリへフランス軍が介入したのを怒っての報復でフランス軍の撤退を求めてきました。 施設では日本を含む26か国の外国人が人質に取られ、アルジェリア政府に「人命優先」を依頼します。しかし90年代に過激派のテロで市民が約20万人も犠牲となったアルジェリアは一切の条件闘争を拒否し襲撃翌日には空爆を開始。最終的に特殊部隊が突入し制圧しました。人質38人が犠牲となり、うち10人が日本人でした。 いったん国同士の関係になると国際法では解決の第一責任を発生国としています。ペルー日本大使公邸事件でも現地政府は軍突入を事前に日本に通告しなかったようです。任せるしかないもどかしさとでもいった事態が今後も十分起こり得ます。 ※注1:例えば左翼勢力がよく用いた「日本帝国主義の打倒」「アメリカ帝国主義の追従反対」といった政治的な目的を達成するためとの文言があるかどうかです。なお「犯行声明」はマスコミ用語で送り主は「声明」としか認めません。自らの行為は正当で「犯行」と考えていないからです
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】