森の樹木を1本も伐らずに家を建てる⁉北海道生まれの建築家が手掛けた、自然と調和する優しい自邸
札幌市内に大切に残されている森の一角に、小さないくつもの箱をそっと置いたように建てられた鈴木理さんの自邸。札幌生まれの建築家ならではの森への愛情にあふれた住まいです。 【写真で見る】どうやって森の木を避けながら建物を建てる?控えめなプランで生まれたメリットとは
大きな窓から入り込む木漏れ日を楽しみながら生活する
札幌で生まれ育った鈴木理さん。東京のアトリエ事務所で9年働き、独立と同時に札幌に戻りました。当初はマンション住まいでしたが、いずれは北海道ならではの自然と身近にふれあうことのできる住まいをもちたいと考えていました。 やがて森に面し、眼下には川のせせらぎが望めるという絶好の場所に巡り合いました。 「札幌市からほど近くでありながら、これほどの緑に恵まれた住宅地はなかなかありません。樹木の姿も気に入りました」と鈴木さん。
自宅、事務所、父の部屋、友人のアトリエ──多様な用途を内包
最初は自宅と自身の事務所、さらにコピーライターをしている奥さまの仕事場を設ける予定でしたが、この土地を見た鈴木さんの父親から別荘代わりに使う週末住宅がほしいというリクエストがあり、さらに奥さまが仕事で知り合って親しくしている彫刻家がここに製作小屋があったらうれしいと希望したことから、従来の計画に加えて、父親の週末住宅と彫刻家のアトリエをこの敷地に用意することになりました。
木を1本も伐らない!? 小さなボリュームの集合で森に溶け込む控えめな佇まい
「私が最も大切に考えていたのは、既存の樹木を1本も伐らずに、それをかわしながら建物を建てることでした。ところが多用途の空間を一棟にまとめるとすればボリュームが大きくなり建築が森に勝ってしまいます。そこで、建物はひとつながりでも目的ごとに分棟して樹木の間に差し込むようにしようと思いました。基礎も90㎝掘り下げて各階の高さは2.5mに抑え、森とのバランスを考慮しています」
多様な空間が森との多様な関係をつくり日常に彩りを添える
外観デザインを森に溶け込ませる一方、内部空間について鈴木さんはこの土地ならではの自然を生活のさまざまなシーンで楽しめるように工夫しました。 「建物は大きく2つにゾーニングしています。1つは私たちの住まいと父親の週末住宅のある住居棟、もう1つは私の事務所と彫刻家のアトリエのあるパブリック棟です。 各棟は大きさをそろえた2つの箱を平屋の吹き抜け空間で連結したもの。合計4つの箱は平行に並ぶのではなく少しずつずれています。 既存の樹木を残しながら、その間に建物を設けることを徹底し、建物の先に眺めたい木を捉えるようにした結果です」