「街に失業者があふれようがおかまいなし」ビッグテックがAI開発に全力を注ぐ真の理由とは..「貧富の差」「モラル」を無視して進む<人工知能民主主義>に希望はあるか
過剰な人材獲得競争が招いた末路
ではどうしてそうなったのか? そもそもシリコンバレーは住人間の格差が大きく、よく「上位25%が全体の富の92%を持つ歪なもの」と表現される。そしてシリコンバレーは、高い付加価値を持つ仕事をするビッグテック勤務者と、そうした人々を支える、インフラ側で働く人によって成り立ってきた。 実際、シリコンバレーにはApple、Google、Facebook、Intel、そして最近全米3位の時価総額に達したNVIDIAというビッグテックや世界の主要企業の本社(HQ)が勢揃いし、常に熾烈な人材獲得競争にさらされてきた。 その人材獲得競争が過熱しすぎた結果、最近では雇用しても意味のある仕事を与えられず、飼い殺しにしたり、意味があるものかどうかは置いといて、とりあえず<仕事のようなもの>を与える、いわゆる「フェイクワーク」が発生し、問題になっていた。 また、過剰な人材獲得競争は、家賃や物価の高騰を招いた一方で大量解雇も行われ、家を追い出された人々がホームレスになって街をさまよう事態になった。 今や街なかにテントが張られているのが日常の風景となり、家の無い人たちが居座るのを防ぐため、カフェから椅子が撤去。観光地として有名だったフィッシャーマンズワーフはさながら廃墟のようになっている。 もちろん、そうなった原因は複合的なものだ。家賃や物価が高騰する状況に加えて、コロナが来たために、さまざまなバランスが崩壊。ベイエリアに住む「普通の人々」まで打撃を受けたのだろう。 しかも、そうこうしている間に、ビッグテックはAIシフトに向け、万単位の人員を削減し始めた。切られる人々の多くは、AI以前の古い(レガシー)技術しか身につけていないエンジニアやセールスパーソンなどだろうが、結果的に「転職するにも同じ条件で働ける場所がない」という状況に陥り、苦しんでいるのも間違いない。
「バブル崩壊」ではないのが恐ろしい
こうした話が「ビッグテックバブルの崩壊を意味していない」のが、また恐ろしいところだ。むしろビッグテックのいくらかは過去最高益を出すなど、ますます儲かっている。 そもそも、不要なほど大量の人員を抱えていた目的には、ある意味、ライバル企業の研究開発を妨害することがあったと思われる。 しかし、注力を続けてきたAIが研究開発のフェーズを終えて、実装フェーズに入った。そうなれば、年収2000万円から一億とも言われているエンジニアを雇っての<フェイクワーク>などにお金を使う必要などなくなる。そして人員を絞り、経費を圧縮すれば、利益はますます上がる。これは当たり前だ。 失職者がたくさん生まれている状況から考えると、同じ場所で信じられないくらい不公平な事態が起きているのだが......もはや我々には、ビッグテックの製品を使い続けるしか選択肢が存在しない。 やはり23年7~9月期に最高益を叩き出したFacebook。今アプリを開けば、写真を無断使用された著名人が宣伝をし、あたかも大企業が仮想通貨をスタートしたと発表するような「偽広告」で溢れかえっている。 Facebookを運営するMeta社もAI研究の先駆者であり、Facebookの扱う広告の審査は全てAIが行なっている。それなのに偽広告が氾濫しているのは、彼らが使っているAIの性能が足りていないからに相違ない。 AIの性能が上がるか、アメリカ政府がより真剣にこの問題に取り組むようになるまで、おそらく偽広告は表示され続けるのだろう(ひょっとすると、アメリカ国内では既に表示されておらず、この問題はスルーされているのかもしれないが)。 ともあれ「偽広告」が大量投下される裏で、無数の被害者が産まれ続けている。「最高益」が「偽広告」によって達成されたと思うと、著者は素直に拍手することができない。