レアルを本気にさせた鹿島アントラーズの敗戦価値は
たとえば、ボランチでフル出場した永木亮太は、一気に前がかりになったマドリードの背後に広がるスペースに、世紀の番狂わせへの可能性を見いだそうとしていた。 「より攻撃的になったことで、逆にそこ(背後)を突けたら、というのはあったんですけど。普段だったらボールを奪えるところで奪えない、相手のボールの置き所がよくてちょっとの差で届かない、あるいは球際の攻防で相手にボールがこぼれていく、ということが何回もあった。もともとフィジカルやスピードの差があると思っていたけど、加えてひとつひとつのプレーの質もすごく高い、と感じながら戦っていました」 マドリードの大会緒戦となった、北中米カリブ海王者のクラブ・アメリカ(メキシコ)との準決勝をスタンドで観戦した永木は、マドリードを機能停止にさせる青写真を描いていた。トニ・クロースとインサイドハーフを組んで前線へ決定的なパスを供給する、人体にたとえるなら左右の“肺”を形成するルカ・モドリッチが見せたわずかな隙に狙いを定めた。 「見た感じではモドリッチはドリブルも仕掛けてくる感じだし、ちょっとボールをさらしながら中盤でボールを持つので、奪えるチャンスはあるのかなと」 しかし、不動のクロアチア代表であり、5シーズン目を迎えたマドリードではファンやサポーターから『ノー・モドリッチ、ノー・レアル(モドリッチなくしてレアルなし)』と全幅の信頼を寄せられる31歳が築く牙城は高く、そして険しかった。 「ボールを奪えなかったことが何回もあったし、頭をよく使ってランニングスペース探していた。テクニックももちろんすごいけど、サッカーをよく知っていて、考えながらプレーしていることが伝わってきた」 試合はそのまま延長戦へと突入し、前半8分、14分と連続ゴールをあげたロナウドがハットトリックを達成。粘る鹿島を振り切って、2年ぶりにクラブワールドカップを制した。 欧州王者を本気にさせて、90分間の攻防では負けなかった事実をどのようにとらえるべきなのか。昌子は「それ(本気)が目標じゃない。いい試合をした、では意味がない」と最終的には個の力に屈してしまったことに悔しさを露にした。 「負けて当たり前みたいに思われていたかもしれんけど、そういうのを覆そうとずっと思っていた。(途中からは)無我夢中で、どう守ったのか、何がよくて何が悪かったのかもわからんけど、個々の差の部分で最後の最後、じわじわと開いてきたんじゃないかと」