レアルを本気にさせた鹿島アントラーズの敗戦価値は
鬼気迫る表情のスーパースターが、猛然とプレスをかけてくる。レアル・マドリード(スペイン)が2‐2の同点に追いついた直後の後半16分に訪れたシーンに、鹿島アントラーズのDF昌子源は怒とうのように押し寄せる威圧感を必死にはね返そうとしていた。 「これは本気だ、というのは感じました。とにかく、雰囲気がまるで違ったので」 横浜国際総合競技場を舞台に、18日夜に行われたFIFAクラブワールドカップ決勝。アジア勢として史上初のファイナリストとなった開催国代表のJ1王者・鹿島に、直前にPKを決めたばかりのFWクリスティアーノ・ロナウドが牙をむいて襲いかかる。 鹿島のキックオフから、ボールはセンターバックの植田直通へ一度下げられた。そこへ白いユニフォームの背番号7が、一気に間合いを詰めてくる。あまりの勢いに圧倒されたのか。ボールを奪われ、間髪入れずに強烈なシュートを放たれてしまう。 GK曽ヶ端準の必死のセーブで何とかCKに逃れたシーンを含めて、後半に入ってからのマドリードの選手たちの変化を昌子はこう振り返る。 「ウチが2点目を取って逆転して、向こうのキックオフから試合が再開されたときから、明らかに目つきが違っていた。同点にされた後なども、それまでは僕らがボールを下げたときはそんなに激しく来なかったのに、ロナウド選手がナオ(植田)のところへ行った。ナオも何かを感じたからこそ、ああいうミスをしてしまったのかもしれない」 これまでの「欧州vs南米」という決勝の図式が崩れた今大会。マドリードにとっては格下となるアジアの見知らぬチームから、前半9分に早くも先制点を奪った。銀河系軍団と畏怖される最強軍団に弛緩した雰囲気が漂ったのを、昌子は感じずにはいられなかった。 「前半は本気を出していないというのは、正直、やっているこっちが感じていた。早い時間にウチが失点したのも多分にあると思うし、余裕のあるゲーム展開になると思ったのかもしれない。それでも前半でウチが追いついて、後半の入りからして雰囲気が少し違っていた」 前半終了間際に決まったMF柴崎岳の同点ゴールを振り返っても、左サイドからクロスをあげたFW土居聖真へのプレッシャーが明らかに緩かった。柴崎をブロックしようとしたDFラファエル・バランの対応も然り。後半7分に決まった柴崎の逆転弾も、ゴール前でセカンドボールを競り合ったMFルーカス・バスケスが球際の攻防で簡単に競り負けている。 逆転された直後にジネディーヌ・ジダン監督はベンチ前にDFマルセロを呼び寄せ、真剣な表情で指示を与えている。慢心や油断の類が、瞬く間に危機感に変わっていく。ギアをトップにあげたマドリードとの真っ向勝負こそ、実は鹿島の選手たちが待ち望んでいた展開だった。