工業団地に再エネ・FCV普及、奈良で加速する水素シフトの現在地
奈良県は水素・脱炭素社会の実現に向けて動く。2024年度中に脱炭素戦略と水素基本計画を策定し、水素製造拠点や水素を供給する水素ステーションの重点戦略地域を定め、30年度の水素導入量や脱炭素化目標などを決める。工業団地への再生可能エネルギー導入、路線バスなどの地域公共交通事業者やトラックなどの貨物輸送事業者への燃料電池自動車(FCV)の普及を図る。山下真知事は「水素社会で先頭を走る」と意気込む。(奈良・市川哲寛) 【写真】奈良で拡充する水素ステーション 奈良県は地勢的要件と系統電源の制約で、水力発電や風力発電を導入するには限界があり、太陽光発電と水素エネルギーが重要だと位置付ける。 特に水素は利用段階で二酸化炭素(CO2)を排出せず、再生エネを含めた多様なエネルギー源から製造可能。温暖化対策を講じながらエネルギー供給の安定化を図れる。奈良のような内陸地で水素利活用モデルを確立できれば、全国での水素社会実現やエネルギー安全保障に貢献できる。 このため「水素を中核に脱炭素化社会を推進する」(山下知事)として、官民連携で一定地域で水素需要を作り出す。水素基本計画では重点戦略地域での水素製造拠点や水素ステーションの計画を策定する。ユーザーや水素供給事業者、FCVメーカーそれぞれが十分な需要を見込め、導入・投資計画を立てやすく、コスト低減につながる状態を目指す。 脱炭素戦略では、30年度のFCV導入目標を設ける。地域公共交通事業者や貨物輸送事業者向けにPHV(プラグインハイブリッド車)バス・トラックの導入を呼びかけ、事業者の導入を促す。また、太陽光発電設備や蓄電池の導入で最大500万円を支援し、将来の電気自動車(EV)トラック・バスの導入につなげる。 水素基本計画の重点戦略地域近くの工業団地では、水素を含む再生エネ活用による脱炭素化計画も策定する。民間事業者や有識者と協議、検討の場を設ける。「再エネで発電した電気で水素を取り出すことにも挑む」(同)構えだ。 水素サプライチェーン(供給網)の社会実装や水素の利用拡大を図るため、水素の製造、貯蔵、運搬、利用の設備を導入する事業者に最大1億5000万円を国の補助金に上乗せする。「水素の供給と利活用に同時並行で取り組む」(同)として、水素充填ユニットなどの導入を加速する。 災害レジリエンス(復元力)強化への水素の活用も図る。移動式発電・給電システムの導入に向け、9月までに平時と非常時の活用法を策定する。 災害対応では五條市に建設予定の防災拠点に太陽光発電所を建設し、発電した電気を蓄電池に充電し、災害時にヘリコプターで被災地に運ぶ計画もある。太陽光発電所については地元や県議会の賛同を得られておらず、有識者会議で計画をブラッシュアップしている。 工業団地では、使用電力の100%を再生エネで賄う「RE1100工業団地」を推進する。「再エネ100%での工場稼働を求める企業、取引先から環境に配慮した生産工程を求められている企業が多い」(同)として24年度にニーズを調査し、規模や時期を決める。水素を中核にしたエネルギー政策により、豊かで活力ある地域の創生を図る。