返礼品競争が過熱 ふるさと納税発案の福井知事が語る「本来の趣旨」
自治体連合設立で「本来の趣旨」を広める
ふるさと納税を提唱した立場である福井県は、2017年5月に「自治体連合」を立ち上げた。正式名称は「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」。原点に立ち返って制度本来の3つの趣旨を広めるのが目的だ。そのためのネットワークづくりを進め、2018年10月現在、9府県含む74の自治体が参加している。 自治体連合は、帰省する人の多い8月と、ふるさと納税の利用者の増える年末を控えた11月を強化月間としてPRを促進するほか、「本来の趣旨」に沿って寄付金を活用した優良事例を表彰している。これまでに、村内唯一の県立高校を存続させるために新学科を設立し、生徒を全国から募集した事例(長野県白馬村)や、都市住民が移住するための仕事づくりを市民と共同で行った取り組み(岐阜県郡上市)など、地域活性化に活かした計7市町村を選んだ。
納税者の1割が利用するくらい根付かせたい
ふるさと納税の未来像を西川知事はどう思い描いているのか。ふるさと納税という言葉自体の認知度は高まったが、実際に制度を利用したことがあるのはまだ納税義務者中の4%程度にとどまっている。それを「10%くらいの人が活用するくらいまで普及させたい」という。ふるさと納税の寄付額は、2017年度実績では約3700億円。1割が活用するになるとその金額が「1兆円くらいになる」と言い、「そうすれば制度として定着したことになる」と見据える。 質的な面では、新しいタイプのふるさと納税の登場や広がりに期待する。福井県では2015年から「プロジェクト応援型」(テーマ型)のふるさと納税を始めた。テーマ型とは、自治体側が掲げる事業(プロジェクト)を選択して寄付できる制度。具体的には、寄付する高校を選べる「ふるさと母校応援プロジェクト」や、高校生の海外留学費を支援する「長期海外留学プロジェクト」などのように使いみちを示している。 「地域での税金の使いみちは非常に議論が多い。全国で、本来はそこに住むべき人だが住んでいない人たちが応援したものに使うのは弾力性があって面白い。地方議会の議論の中に夢やロマンを入れられる」 テーマ型のふるさと納税が利用できる自治体(総務省調査)は、2015年は62自治体で全体の3.4%、16年は200自治体(同11.2%)、17年は255自治体(同14.3%)と増加傾向ではあるが、まだ少数派だ。今後こうした仕組みをより広げていきたいという。 そのほか、福井県は地域で新規事業を創出する取り組みなどを担う人材への支援(チャレンジ人材応援)も2018年度からスタート。北海道東川町では寄付者を町のイベントなどに招待する試みを行っている。西川知事は、ふるさと納税を通して、交流ができた町に「行ってみたい」「住んでみたい」といった「人の移動」が促されるようになればと想像する。 ふるさと納税をめぐっては、生まれ故郷だけにとどまらない支援の輪が広がることがある。大きな災害時に被災地にふるさと納税が活用されているのだ。2016年の熊本地震では全国から1億円を超える寄付が集まった。 「故郷への恩返し」「応援したい町への貢献」を実現する手段がふるさと納税だと語る西川知事。故郷を離れた人、故郷を持たない都会の人も、応援したい「地方」の力になれ、交流が生まれると制度の意義を強調する。
--------------------------------- ■西川一誠(にしかわ・いっせい) 福井県知事。73歳。 福井県丹生郡越前町(旧朝日町)出身。1968年4月、京都大学法学部卒業。同年4月に自治省入省。市町村税課長、企画課長、国土庁長官官房審議官などを経て1995年に福井県副知事に。2003年の福井県知事選で初当選し4月に知事就任。現在4期目。「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」の共同代表も務める