返礼品競争が過熱 ふるさと納税発案の福井知事が語る「本来の趣旨」
[映像]西川一誠・福井県知事インタビュー
「ふるさと納税」といえば、寄付した自治体から「返礼品」がもらえるお得なサービス、というイメージを持つ人が少なくないかもしれない。今年は、この返礼品のニュースが世間を騒がせた。ブランド牛肉やコメ、家電製品などの豪華な返礼品をめぐり、総務省が9月、調達額が寄付額の3割を超える返礼品や地場産品ではないものの場合は制度の対象から外す方針を表明したのだ。 【画像】ふるさと納税「見直し検討」で大阪・泉佐野市が会見(全文1)幅広く議論を行い納得できるルールを作るべき 自治体からは「特産品の豊富な町とそうでない町に格差が生じる」などと反発の声が上がる一方、脱・返礼品に向け、制度本来の趣旨の浸透を目指して「自治体連合」を立ち上げた自治体もある。 この自治体連合を立ち上げたのは福井県。だがなぜ福井なのか疑問に思う人もいるだろう。実はふるさと納税は「国」ではなく、「地方」からの提案で誕生したもので、その発案者が福井県の西川一誠知事なのだ。西川知事に、制度スタートから10年たったふるさと納税の現状と今後について聞いた。
広辞苑にも掲載された「ふるさと納税」
2008(平成20)年にスタートしたふるさと納税。今年1月に改訂された岩波書店の「広辞苑」には、「スマホ」「上から目線」「LGBT」などの言葉とともに、「ふるさと納税」も新たな項目に追加された。西川知事は「普通名詞のような、国民的な認知をいただいた」と喜ぶ。 「ふるさと」と銘打ってはいるが、生まれ故郷以外の特別ゆかりのない自治体に対しても寄付することが可能で、寄付金の一部が現在住んでいる自治体の住民税から控除されるという制度だ。 ふるさと納税が誕生したきっかけは、1本の新聞記事だった。2006年10月の日本経済新聞に掲載された「経済教室」の欄で、西川知事が「故郷(ふるさと)寄付金控除」制度の導入を提案する記事を出したところ、学者や政治家の関心を引き、特に当時の菅義偉総務相の目に止まって制度化が実現した。
地方と都市のアンバランスを税制で是正
ふるさと納税にはどんな狙いがあるのか。西川知事は3つの理由を挙げるが、その1つが人口流出と一極集中が取りざたされる「地方と都市」の関係だ。 「福井県は『幸福度』日本一で、東京は2位。『日本一』の県でお金をかけて育てて、『2位』の東京に行く」。西川知事は「幸福度ランキング」(日本総合研究所の)で3回連続1位に輝いた福井県から東京へ人口が流出する実状について嘆く。 「若者は自然に大都市に行ってしまう。田舎では彼らを一生懸命教育する。つまり地方で出生してから、高校卒業まで地元で行政サービス受けて、進学などを機に大都市に出る。そのまま就職して大都市の自治体に納税する。このアンバランスな状況を税制で直したい」 福井県では、進学などで毎年約2500人が上京するが、戻ってくるのは600人程度だという。 2つ目は「納税者主権の促進」。会社員の場合、給与などから源泉徴収されるので、自分が税金をいくら収めているか意識している人は必ずしも多くないだろう。 ふるさと納税には、返礼品だけではなく、自治体の具体的な事業を選んで寄付できるものがある(プロジェクト応援型)。そうした行為を通じて地方政治に関与することで「自分はどの自治体に寄付して、どれくらいの控除を受けるのか、税の使いみちを自覚したい。一人ひとりの納税者としての意思と権限を促進したい」と語る。 最後は「自治体政策の競争と向上」だ。寄付を集めるために、各自治体が政策や返礼品などで自分たちの魅力をアピールしたり、寄付がどう活用されたかなどの成果を説明したりすることが必要になる。それが自治体の政策づくりに創意工夫を生み、自治体間の切磋琢磨につながるという。「納税者主権を発揮してもらうことで、自治体側も政策の自主性を発揮する。こういういい循環が期待できる」