清春とBorisの共闘、インディペンデントの精神、誇り高く生きる「美学」を語る
「僕らは、本当に日本の音楽業界に参入してない感じがする」
―目的や本気度が違うっていうお話がありましたが、Atsuoさんとしてはいかがですか? Atsuo:そんなところまで感じてもらえて嬉しいです。向こうでヘヴィな音楽をやろうとしたら、まず言葉も、体格も違うし、気持ちだけでも一生懸命やらないと音が届かない。海外のドラマーは体格が大きいから圧倒的に音量がデカいし、生音勝負が当たり前。だから同じステージ上で魅せていくために日本人ではいられないですね。 ―バンドのジャンルにもよるけど、シーケンサーもあまり使わないですもんね。ちなみに、リハーサル中にお客さんが入ってきてしまったという話も聞きました。 清春:機材が遅れた日にリハをしていたら、開場前なのにお客さんが入ってきちゃったんですよ。急いで裏に入ったけど。それもいい体験。もはや面白かったです(笑)。 Atsuo:今回のツアーでは、清春さんのセットに僕らが1曲参加して、清春さんにもBorisのセットに1曲参加してもらったんです。こちらのセットでは、Dead Endトリビュートに入れた「冥合」で清春さんに参加してもらいました。連日その曲が始まるセットの中盤くらいでステージに呼び込んでいたんですけど、ある日のライブの時、呼んでもぜんぜん清春さんが出てこなかったんですよ。お客さんにコールをしてもらったりしながら待っていても、まったく出てこない。そしたらツアマネが出てきて、「清春さんが蜂に刺されてしまって動けません……」ってこともありました。 清春:そうなのよ。めっちゃ痛かったわ(苦笑)。 Atsuo:そうこうしてる間に状態が回復して、ステージに上がって歌ってくれたんですけど。ロックスターってやっぱり持ってるんだなって思いました(笑)。絶対に記憶に残るじゃないですか、こんなこと。 清春:スタッフにも持ってますよねって言われたけど、最終的に持ってるのはAtsuo君だったね(笑)。最終日に携帯を失くして大変だったじゃないですか。 Atsuo:そんなこともありました(笑)。でも、新しいことやろうと思ったら絶対にトラブルは起こるんですよ。 ―そりゃそうですよね。 Atsuo:お互い自分で決めて、自分で動く。ずっとそういうスタンスでやってきているから、トラブルはしょうがないですよね。 清春:自分とは関係ないところで起きますからね。ま、携帯なくしたのは自分ですけど(笑)。話を戻すと、Atsuo君と知り合っていろいろ話してきたなかで、日本の狭い環境で満足しちゃってる人たちやオーディエンスが国内で不思議な「何々系」ってカテゴライズしていることや、洋楽に根拠のないリスペクトしていることに対して、すごくジレンマを感じていたんです。でも、今回のツアーで、結局同じ人間なんだから洋楽も邦楽もなく、本物かどうかだけなんだってことがわかりましたね。 ―なるほど。 清春:僕は本場で何年もツアーをしてるBorisが、日本代表としてフジロックのメインに出ればいいと思うんです。この国の人は、たいしたことない人を特別に扱っていたり、ちゃんとしている人が扱われていなかったり、っていうことが多すぎる。そういう連鎖がずっと続いているからロックが廃れるんだとは思います。今、ロックよりもラップのほうが上に来てるじゃないですか。本物の匂いに気づく人は、ロックに嘘臭さを感じてるんだと思う。別にいいんですけどね。ロックバンドでも、一発アニメソングがヒットしたことで、ちょっと海外でライブをして「海外で人気です」「海外で通用しています」ってプロモーションをしている、本当にしょうもないなって。でも、そういう風にしてこの国の音楽シーンは回ってる。 Atsuo:僕らは嘘偽りなく何度も海外ツアーしてるのでね。自分で考えて、決断して、行動して、特に国内に向けてそれらをPRする必要もない。 清春:だから、真実をやってる人たちと一緒にツアーに回れたっていう感触がありました。別に、デカい事務所が海外施策として向こうのエージェントと繋がって、外タレと組ませてすごく人が入った、でもいいんですけどね。でも、いつの間にかロック畑の人たちやフェスを運営する人たちも、そういうことばかりに終始してる。 ―音楽の本質と関係ないところで音楽シーンが動いている感じはします。 清春:結局、今も昔もたくさんいる中で頭一つ出ていい生活をしたいってだけの話だから。僕らみたいな感じだと、どこにも属せない感じがある。そこがBorisとは様子が似てるんですよ。Borisは世界で活動してるけど、リアルにサバイブしてる。 Atsuo:日本で、音楽で食べて行こうと思うと、どうしても歪にならざるを得ないところがありますよね。アメリカだと大都市て1000人から2000人規模の会場を埋めるくらいでツアーに回ればそれで食えたりするんですよ。日本だとリキッドルームを埋めたからって食えないじゃないですか。地盤がぜんぜん違うんです。 ―確かに。その地盤の違いからバンドの活動も違ってくる。 Atsuo:どうしても国内ではバンドごっこが目につきますね。 清春:最近のダイブやらモッシュやらの問題も然りね。 Atsuo:確かに、全部真似ごとですね。大人になっても学園祭ノリが抜けきらないというか。 清春:日本のミュージシャンでも海外に行ったことある人はたくさんいるんだから実際は気づいてるはずです。 Atsuo:僕らは、本当に日本の音楽業界に参入してない感じしますね。 清春:参入してないですよね。さっきも話したけど、ほんとはBorisがフジロックのホワイトステージやグリーンステージに出ててもおかしくないと思うんです。これだけ海外でしかも長い間活躍できているバンドって他にいないんだから。 Atsuo:僕からすれば、この規模感で独自の活動を自分たちの力でできている清春さんのすごさに気づいたほうがいいと思いますけどね。そういうアーティストが国内にもちゃんといるっていうことを。 清春:絶対にみんな事務所に入りますからね。そこで一回戦いが終わってる。日本だと、まぁまぁな人たちの中からカッコいいのを探さなきゃいけない気がするな。まぁまぁの中で「尖ってるふう」な人を探してるみたいな。 ―本当に尖っていたら締め出されてしまいそうですもんね。 清春: Borisはちゃんと尖ってるんですよね。さっき日本の音楽業界に参入してないって言ってたけど、参入できないような何かが作られちゃってる。それは、僕が日本で30年間やってきた印象ですね。時代は変わったみたいに言われていますが、ずっとずっと何も変わってない。まず芸能界があって、オリコンだったじゃないですか。簡単に言うと、今はあの時代のオリコンがフェスになっただけの話ですよ。 ―評価の軸が、「オリコン何位」から「あのフェスに出た」に変わった。 清春:オリコンでいえば、大阪、名古屋、北海道とか、それぞれの都市のチャートがあるけど、どれも1位は同じ。そりゃ東京発信の人が1位になるよな、っていう感じで。 ―事務所の力とか、プロモーション次第だったってことですよね。アメリカでは地方のいい音楽をやっている人がちゃんと評価されているし、地方でも音楽で食えていますよね。そのぶん、淘汰もされているんでしょうけど。 清春:日本は、本当に自由にやってる人たちは除外されていくんだよね。Borisのように海外でちゃんとやってる人たちが目に入らない仕組み。それはよくない。もちろん日本にもBorisを評価している人たちがいるし、熱狂的なファンもいるんです。もっと声を上げてもいいのになって思うけど、たぶんみんな日本を諦めてる。