清春とBorisの共闘、インディペンデントの精神、誇り高く生きる「美学」を語る
オーストラリアツアーでのハプニング
―バンドによると思いますが、特に大手だと事務所が方向性を決め、マネージャーをつけて、その元で活動を行うっていうのが一般的ですもんね。とはいえ、実際、海外のライブはイレギュラーなことが本当に多いと思うので、大変だったんじゃないですか? Atsuo:いろいろありました。今回、よく清春さん最後までやってもらえたなって思いました(笑)。本当にすみませんでした……。 清春:ぜんぜん。いい経験。そもそもBorisがいなかったら行ってないですから。 ―ちなみにどんなハプニングがあったんですか? 清春:日本だったら絶対に起きないことで言うと、機材が届かない(笑)。2回ありましたね。ライブが8時半から始まるのに、7時半になっても届かない。 Atsuo:地方だと機材レンタル会社が一つしかなくて、独占企業だからふんぞり返ってるんですよ。連絡すると「1人ドライバーが吞んじゃってさぁ」って言っていて。 ―それで遅れるんですか? 清春:しかも違う機材が来るんです、ギリギリに(苦笑)。もちろん自分たちで楽器は運んでますけど。 Atsuo:機材は一部、エフェクターボードとかギター、ベースとかは運んでいるんですが。 清春:今回、辻(コースケ)君が一緒にツアーをまわっていたんですけど、パーカッションは現地で調達したんですよ。 ―なのに遅れる(笑)。 清春:最後のほうはもう慣れて、「辻君、もう今日はなしですね」って(笑)。 ―踊ってるだけ、みたいな(笑)。 清春:「今日は見ててください、僕らだけでできますから」って(笑)。 Atsuo:プロンプターの話ってしてもいいですか? 清春:あぁ、いつも歌詞を表示しているプロンプターが爆発したんですよ(笑)。 Atsuo:初日ですよね。Borisはスモークをめちゃくちゃ焚くのですが、僕たちのリハ中にスモークマシーンのコントローラーを押してないのに煙が上がってて、何だろう?って思ったら、プロンプターのモニターが焼けてた(笑)。 清春:僕は目撃していないんですけどね。スタッフが奮闘していました(笑)。それで、初日のライブは忘れたけど、もう1本は勘でやりました。どうせ海外だから歌詞なんて更にわからないし(笑)。 Atsuo:あの動じなさはさすが(笑)。 清春:初日のシドニーでいろいろ慣れましたね。やるまでイメージできてなかったけど、ステージに出て、3、4曲目くらいでこれはかなりの覚悟でやらなきゃいけないなって。来る人のほとんどが、僕のことを知らないBorisのファンでしょう。僕らに対しては、Borisのフレンドで、日本のロックシンガーだって情報だけで、「誰ですか?」って感じだろうから。今の僕の音楽はパーカッションとサックスとギターという編成だから、音楽性もぜんぜん違うし、どうしようかなって思ったけど、やってみて考えようって臨んだんです。実際にやったら、Borisとまったく違うから逆に良かったなって思いましたね。 Atsuo:清春さんのキャリアで、そこにトライできるのがすごいですよね。そもそも、ライブへの取り組み方が、Borisと清春さんは真逆。例えば、僕らは何度もリハーサル入るんです。ツアー先でどんな状況になってもいいように、何も考えなくても演奏できるぐらいまで準備します。僕らは決めたらずっと同じセットをやるけれど、清春さんは毎日セットリストを調整していましたし、その時その時でステージ上でも変えていく。でも、それはお互いのその瞬間に対して反応するためのやり方なんです。アプローチが違うだけで、今を大切にしているという部分では同じですね。今回ツアーをして、そこがすごく面白かったですね。 ―確かにアプローチは真逆だけど、そこは近いですよね。清春さんは、そもそもセットリストって、行く前に決めてたんですか? 清春:もちろん初日は決めてました。 ―その後は、初日に感じたことを受けて変えていったんですか? 清春:これは通用しない、これは通用するっていうのを会場で感じながら変えましたね。日本とはまったくムードが違うし、毎日違うんですよ。Borisのライブに対しても、街によってめちゃくちゃ盛り上がったり、ただ音を浴びて聴き入っていたり、反応が様々だったから。やっていくなかで、2本目くらいから、僕たちには目的がないことに気づいたんですよ。 ―どういうことですか? 清春:自分の出番が終わった後にBorisのステージを観ていると、人生の違いを感じるわけ。Borisは長い期間オーストラリア、US、ヨーロッパと世界を回ってるから、今回もその道のりのひとつじゃないですか。一方、僕らの場合は自分が海外でどれぐらい通用するのか、っていうことでしかない。Borisの場合はそこが主戦場だから、必死さが違うんです。僕はそのライブでウケればいいだけだから、生半可なんですよ。僕らの方が必死かと思いきや、Borisの方が必死なんだってことがわかりましたね。 ―Borisはまた同じ場所に帰ってくるわけですからね。 清春:僕は、国内には自分が恐怖を感じるバンドはひとつもないってよく言ってるけど、海外だとそうはいかない。日本だと想像がつくけど、今回観たのはそれとまったく違う世界。 ―とんでもないバンドがたくさんいますもんね。 清春:お客さんにしても、いろんなライブに行っていいものを観てきた中からBorisを選んで来てるのがわかるから。お客さんとも闘っているというか、やるかやられるかの世界。骨が折れるんじゃない?ってくらいAtsuoさんがダイブしてケガもしてるし。日本でライブをやる時とは違うAtsuoさんの一面を感じましたね。本腰の入れ方が違うっていうか。誤解を与えるかもしれないけど、Borisの日本でのライブは遊びって感じがするくらい(笑)。 Atsuo:(笑)いやいや 清春:日本は箸休めでやってるような……(笑)。もちろん一生懸命やってるんでしょうけどね。変な話、僕らが仮に変なヴィジュアル系のイベントに出たら本気ではやらないかもしれないけど、ジャンルの関係のないフェスに出たらちょっとがんばるじゃないですか(笑)。そういう差は感じましたし、Borisの本当のすごさを思い知らされました。