清春とBorisの共闘、インディペンデントの精神、誇り高く生きる「美学」を語る
清春がBorisと一緒にやりたかった理由
―清春さんもBorisといつか一緒にやりたいと思っていたと思うんですが、いきなり海外で、しかもオーストラリアっていうのはどうでした? 清春:僕はもともと自分の曲のバッキングトラックをBorisが演奏したらどうなるのかな、って考えていたんです。それをパッケージしたいなとか、Borisというすごい才能と一緒に何ができるんだろうっていうことをエディット感覚で考えてた感じですね。Borisってラウド、メタル、ハードロック、パンクともハードコアとも違う。ジャンルとして形容しがたいじゃないですか。 Atsuo:そういう意味では、清春さんの音楽も、どんどん形容しがたい方向にいっているので、すごくタイミングがよかったと思います。僕は、コロナ禍に入ってから、MORRIEさんと清春さんのライブを一番たくさん観ているんですよ。ツアー中のLAでも清春さんの配信ライブを観ていたくらい(笑)。 清春:優しいのよ。 Atsuo:ウォッチャーです(笑)。清春さんのライブって、実際に観ると本当にすごいんですよ。何が起こるかわからない。だから、自分たちが受け継いでいるこの隠された日本のロックの文脈を、海外の人たちにも知ってほしいという想いもありました。清春さんなら通用すると思ってましたし。本当に唯一無二だから。そういう人しか海外へ出ていけないじゃないですか。 清春:そうじゃないバンドも海外に出ていってる気がするけどなぁ(笑)。っていうのは、そもそもAtsuo君と知り合って、彼のSNSをフォローして見ていて、活動の世界線がぜんぜん違うんだなって思っていたんですよ。今回一緒にツアーに出て、それがよりリアルに感じられました。 ―何が、どう違うんですか? 清春:以前からよくAtsuo君と話していたけど、「海外のフェスに出ました」とか「海外で活動してます」って言ってる日本バンドがたくさんいるじゃない。ああいうのって基本、PRだよね(笑)。MORRIEさんは長い間ニューヨークに住んでいるのでBorisの現地でのライブも観に行っていて、「Borisは本当にすごい。現地のお客さんだけで2000~3000入れちゃうから」って聞いていたんです。 ―確かに、海外でライブをやっても結局日本人が行ってるという話はよく聞きますよね。 清春:それに、フェスだとかライブだとか言っても、ほとんどがアニメ系の影響だもんね。 ―現地のアニメエキスポ的なものに、アニメの主題歌がヒットしたことで呼ばれて、日本のカルチャーが好きっていう人が集まっているってことですよね。要するに、音楽そのもので勝負していない。 清春:今回ツアーを一緒に回って、Borisがやっているフィールドはリアルロックなんだってわかったんです。Borisこそが唯一無二ですよ。でも、日本の人たちからは不思議な存在だと思われているところがありますよね。日本の人たちからするとBorisはどこのジャンルにも入ってない。もっといえば、シーンの中に入っていない。たぶん、どこに出ても浮くんですよ。だけど、本人たちが別にそこに入ることも、入らないことも望んでない。Atsuo君は日本のフェスに対しての感覚もぜんぜん違うんですよ。前に話していたんだけど、日本だと、例えばフジロックに出ることが評価になってたりするじゃないですか。 ―出たことで、本物の仲間入りみたいな? Atsuo:日本だとそういったフェスを目指すのがアーティストとしての一番正しい姿みたいなところがありませんか? 評価のされ方がそれしかないんだと思うんですけど、そこに出られたらアーティストとして評価されたっていう免罪符みたいになってる気がして。アーティストとして評価を受ける道筋がとても限定されている。 清春:それは何十年も海外でツアーをして、フェスに出て、自然と身についた本場の感覚なんでしょうね。日本に来てる外タレにしても、日本のディストリビューターが呼んでいるから、日本ではまだまだ知られていないアーティストがたくさんいるけど紹介されるのは同じような外タレ。オーストラリアのツアー中にBorisが出演するフェスに1曲出させてもらったんですけど、出演しているバンドを僕は1組くらいしか知らなかったんです。でも、ちゃんとそのフェスはソールドアウトになってる。 Atsuo:Golden Plains Music Festivalっていうオーストラリアの3大フェスの一つに出演したんですが、現地ではすごく知られているけど、日本では知られていないバンドがたくさん出ている。日本で紹介されていない、リアルにすごいバンドが世界にはたくさんいるので。 清春:それくらい僕らの知ってる音楽って少ないんですよ。 ―あるフィルターを通ったものしか知らないってことですよね。今はサブスクなどで自分からその情報を取りにいくこともできるにはできるけど……。 清春:結局日本のロックシーンと言われているものは選択肢が少ない。海外ではBorisはメタルヘッズたちにも共感されているし、それ以外のいろんなジャンルが好きな人たちも観に来てる。 ―要するに、先ほども言っていた、日本のカルチャー好きとかじゃなく、しっかり音楽で評価されているってことですよね。 清春:日本自体が好きでライブに来た人は、そんなにいなかったと思う。それが僕の印象ですね。実は日本ではロックシーンがまだぜんぜん始まってない。 ―始まってない、ですか? 清春:まだまだ「芸能」の感覚が強くて、それが邪魔するっていうか。 Atsuo:日本のロックは「カタカナ英語」ではなくて、「日本語英語」という感じです。英語のようで海外では通じない。そういう中でも、清春さんと僕らがシェアできるのはインディペンデントってところなんです。日本の音楽用語のインディーズじゃなくて、インディペンデント。自分で決めて、自分で動いている、自立、独立したアーティスト。清春さんは、ずっと自分の事務所で活動していますが、こんなメジャーな規模の活動を全部自分自身でハンドリングしている。とてつもなく強靭な意志と行動力ですよ。そこが一緒にツアーをやりたいと思った一番の理由です。すごくまっとうに音楽をやっている人だと思いますね。 清春:でかい事務所に入っていたら一緒にやらなかったでしょうね。Borisは、今回の規模のツアーをマネージャーなしでやっているんですよ。日本だとしょうもないバンドでも、必ず会場にマネージャーいるじゃないですか。 Atsuo:そこが根本的に違いますよね。海外ではバンドがマネージャーを雇うんです。僕らもアメリカに1人マネージャーがいます。自分たちで雇って、いろんな窓口をしてもらっていますが、基本的に何をするかチョイスするのは自分たちなので。