先端技術で世界一のチームを目指す吉積礼敏氏
クラウドエース株式会社は、2016年11月に設立された最先端技術を扱う事業社だ。その技術力は高く、日本初のGoogle Cloudプレミアパートナーでもある。海外にも複数の拠点を持つシステムインテグレーターで、クラウドの導入設計や生成AI活用、運用・保守までをワンストップで提供している。 創業者である徳島県出身の吉積礼敏会長は、長年に渡って地元のサッカークラブを支援。現在はFC徳島に新分野のデータ収集機能などを導入し、Jリーグ昇格を夢見ている。 サッカー好きの吉積会長は2010年から10年あまり、Jリーグ徳島ヴォルティスを法人会員としてサポートしてきた。 そんな折の22年2月、広島県リーグから中国リーグ昇格を果たした福山シティFC・岡本佳大代表の講演を聞く機会があり、県リーグや地域リーグからでもJリーグに上がれることを初めて知った。福島県リーグから東北リーグ、日本フットボールリーグ(JFL)を経てJ3、J2へ到達したいわきFCについても、岡本代表に説明してもらった。 「そういえば故郷のFC徳島が21年、(JFL昇格の懸かる)全国地域チャンピオンズリーグで決勝ラウンドに進んだことを思い出し、すぐに応援したくなって岡本さんにクラブを紹介してもらいました」 岡本代表の講演から1カ月後、FC徳島の代表代理やゼネラルマネジャーらと初対面し、翌月には早くも協力を申し出た。 吉積会長はチーム強化に関しては専門職の方々に一任し、口は出さない。「5年後のJ1昇格を目指そう」をスローガンに、得意分野である先端技術を活用したサポートを迅速に提供している。 強化に何が必要なのかを思案した結果、今季から選手の細かなデータ分析を導入した。試合において球際の強さや枠内シュート数、オフザボールの動きなど約20項目をチェックし、数値をパラメータ化した。3~4人で採点・評価することにより、数値に大きな誤差は出てこない。採点は100点満点で、データ処理の専従班を置いて分析してもらっている。点数によって報酬も決まってくるそうだ。 「データ化すると全選手の数字が一目瞭然なので監督が数値の低い選手に対し、ここをもっと鍛えようとコミュニケーションを取れます。ある選手のデータが低ければ、そのポジションを補強すればいいわけです。補強面でもデータをフル活用してもらうようにクラブにはお願いしているんです」 “カタパルト”によるデータはあるが、パス成功率などプレー面でのデータがないので、試合中のプレーデータを収集・分析する作業にも着手するところだ。 FC徳島は03年にセレステのチーム名で創設され、四国リーグに復帰した16年にFC徳島セレステへと改称。18年からFC徳島となり、吉野川市をホームタウンに活動している。 16年から昨季までの7シーズン(20年は新型コロナウイルス感染拡大のため中止)で、四国リーグ優勝と準優勝が3度ずつあり、天皇杯全日本選手権には徳島県代表として今年の104回大会まで9年連続出場。全国地域チャンピオンズリーグには、19年から昨季まで5年連続で挑戦中だが、21年に決勝ラウンドに進んだものの、残る4大会はいずれも1次ラウンドで姿を消し、JFLへの道を閉ざされている。 吉積会長は「JFLにさえ上がれれば、J2までは何とかなると考えています。JFLに昇格できたら計算できる選手を獲得し、しっかり戦い抜いていきたいですね」と、その時を遠望する。 現在の悩みのタネはホームグラウンドがないこと。早朝練習は人工芝のヨコタ上桜スポーツグラウンド(吉野川市多目的グラウンド)を使っているが、市の所有物とあってリーグ戦のホームゲームを毎回開催できるわけではなく、今季はホーム7試合のうち開幕戦と最終戦しか使用できない。 分析用の映像を撮影するため、ヨコタ上桜スポーツグラウンドにはカメラを設置した。許可が下りるまでに何カ月も掛かったそうだが、シャワーも取り付けるなど、環境改善は着実に進んでいる。 早期に実現したいことが、自由に使えるグラウンドの確保だ。その構想はごく平凡な施設とは一線を画している。 吉積会長は「優れたデータ分析ができて、選手が成長していける環境づくりが次のステップ」と前置きすると、続けて「グラウンドにカメラを付けて選手の全データを収集します。さらに遺伝子検査も実施し、練習の強度や選手の特性に最適なサプリメントを提供するんです。サウナのほか、体をケアできる炭酸泉を設け、低酸素トレーニングが可能なクラブハウスを造りたい。ここに来たら間違いなく成長できる、と言われる日本一の環境にするためハード面で協力していきたいですね。この2年、クラブやサッカー関係者とはこんな話ばかりしてきました」と笑う。 事業と同じく、まさに最先端のテクノロジーとパーツが散りばめられた構想だ。 クラウドエース株式会社では様々な社会貢献活動を続けている。今夏初開催する「プログラミング甲子園2024」もそのひとつだ。若年層や学生プログラマーが目指す場所を提供することで、スキルの底上げと楽しさを広めるのが狙いだ。対象は小学生~高校・高専生。6月17~7月21日がオンライン予選会で、本戦を8月17日にシティホール&ギャラリー五反田で行う。 吉積会長の夢は壮大だ。「世界一のサッカーチームを地元の徳島につくり、クラブ・ワールドカップで優勝し、シャーレを掲げられたら最高ですね」。こう言って、人懐っこい笑顔を振りまいた。 (文・写真=河野正)