厳しすぎるEV義務化基準に英国老舗自動車ブランドが対処不能、世界のEV市場は中国の激安メーカーが手中に収めるのか
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ 「2035年までに排出量を1990年比で81%削減」の裏側 【写真】英国での脅威となるか!?ブリストル港に到着した中国のEV「オモダE5」 [ロンドン発]アゼルバイジャンの首都バクーでの国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で「2035年までに温室効果ガス排出量を1990年比で81%削減する」と気候変動対策の加速を表明したばかりのスターマー英政権が自動車工場閉鎖の激震に見舞われている。 欧州第2の自動車メーカー、ステランティスが11月26日、小型商用車の生産に特化している傘下ボクスホールの英中部ルートン工場閉鎖を発表。1100人の雇用がリスクにさらされている。生産効率を上げるため電気自動車(EV)の製造を中西部エルズミアポート工場に集約する。 167年の歴史を持つボクスホールは老舗英国自動車ブランドの一つ。ステランティスのライバル、フォルクスワーゲンもドイツ国内の少なくとも3工場を閉鎖し、数万人の従業員を解雇する。ボーナスを含め従業員の給与は18%削減される危機に瀕している。 フォードUKのリサ・ブランキン会長も3億5000万ポンドを投資する一方で、今後3年間で800人の英国人雇用を削減すると発表。「英国人はEVを望んでいない。EVの生産と販売を義務付けるだけでは上手くいかない。政府が支援する経済的インセンティブが必要」と話した。
■ 政府のEV義務化目標とコンプライアンス費用は厳しすぎ 自動車需要が世界的に低迷する中、英国政府が課すEV義務化目標とコンプライアンス費用が厳しすぎるとの自動車業界の苦情を受け、スターマー政権が政策の緩和について協議すると表明したのと同じ日にステランティスは工場閉鎖を発表した。 世界の自動車メーカーが需要低迷に苦しむ理由はいくつもある。インフレで自動車価格が上昇する一方で消費者の購買力は低下した。利上げで自動車ローンの金利は高くなり、購買意欲を減退させる。原材料価格の高騰や半導体不足が製造コストを押し上げる。 2050年ネットゼロ(実質排出ゼロ)を目指す各国政府がEVを推進しているにもかかわらず、消費者への浸透は予想以上に遅れている。要因としては充電インフラや初期コストの大きさが挙げられる。バッテリー技術の急速な向上により走行距離への不安は次第に払拭されている。 英国では24年からゼロ・エミッション車(ZEV)規制が開始された。年間2500台以上を生産する自動車メーカーに対し、新車販売のうち乗用車の22%、小型商用車の10%を完全EVまたは水素燃料電池車とすることが義務付けられている。