社会の発展にプラス、ビットコインの可能性とは【アダム・バック氏インタビュー後編】
ビットコインを支えるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)メカニズムに活用されている「ハッシュキャッシュ」を開発したアダム・バック氏。ハッシュキャッシュ誕生の経緯はインタビュー前編でお伝えした。 後編では、ビットコインの生みの親「サトシ・ナカモト」ではないか、と名前があげられることもあるバック氏に、2008年から知っていたが「しばらくは様子を見ていた」というビットコインとの関わり、ビットコインの今後・将来性について聞いた。 アダム・バック(Adam Back)氏:ブロックチェーン開発企業で、ビットコインレイヤー2「Liquid Network(リキッドネットワーク)」を手がけるBlockstream(ブロックストリーム)の創業者。 ◇◇◇ ──2008年にサトシとやりとりし、ビットコインは誕生のタイミングから知っていたにもかかわらず、あなたは2013年までマイニングを始めなかった。 バック氏:うまく立ち上がるかどうか確信が持てなかった。この種のアプリケーションは、ソーシャルネットワークのようなものだ。継続的に熱狂的なユーザーを確保する必要がある。そうすると自然と成長し、やがて価格がつく。だが、ビットコインには価格すら存在しない時期もあった。ただ趣味としてビットコインで遊んでいる人たちがいた。だから、うまく立ち上がるかどうか様子を見ようと思った。 しばらく様子を見ていると、たまにビットコインが話題になり、価格が1ドルになった。それがスタートだったかもしれない。そして、100ドルになった。いよいよ離陸したと考える時がきた。私はビットコインを手に入れ、積極的に参加して多くを学び、プログラムの改善に役立てようと考えた。 ──ビットコインのマイニングを始めたとき、どんなことを感じたか。 バック氏:まずGPUで行い、その後ASIC(特定用途向け集積回路、ここではマイニング専用マシンを意味する)が登場したので、それを使った。 ハードウェアを購入して動かし、お金を生み出すことができるという新しい行動であり、興味深い行動だと感じた。とてもクールで新しい、斬新だった。おそらく、人々が自分でマイニングできることが、ビットコインの価値を押し上げる要因のひとつになっただろう。人々は、自分で作り上げたものに価値を見出す。 ビットコインの場合、愛好家たちがドライバをインストールし、適切なグラフィックカードを購入し、ソフトウェアを設定するために努力を傾けた。うまく機能させるために知恵を出し合った。彼らはビットコインとマイニングレートに価値をもたらし、最終的にビットコインを大きく成長させた。 ──ビットコインの今のような進化を予想していたか。 バック氏:予想していなかった。普及が継続するかわからなかったし、規制リスクに対する認識も高まっていた。また当時、ビットコインを知っていたり、関心を持っている人はそれほど多くなかった。 だが、今でははるかに広がっている。ETF発行企業や大手金融機関がビットコイン関連のプロダクトやサービスを提供しており、規制リスクは後退したと思う。上場企業や国がビットコインを購入したり、マイニングを行うようにもなっている。ビットコインは多少メインストリートなものになり、個人に普及している。 だが、貯蓄の一部として本格的にビットコインを所有している人や、新興国市場で取引に利用している人の割合から考えると、まだ初期段階にあると思う。 ──しかし、ネットワークとしては信じられないほど安定している。 バック氏:効率性、安定性、堅牢性を向上させるために多くの人たちが取り組んできた。堅牢性は分散化から恩恵を受けており、たとえ個々のサービスがクラッシュしても、ネットワーク自体は非常に高い信頼性を保つことができる。初期の頃はバグが多く、効率も低かったが、ソフトウェア、エンジニアリング、プロトコルの効率性の面では、間違いなく大幅に改善してきた。 51%攻撃(悪意をもったマイナーがネットワークのハッシュレート=計算能力の51%以上を確保することで、ネットワークを不正操作する攻撃)はもはや事実上不可能だ。ネットワークの規模が大きく、マイニング機器への投資額は莫大なものになる。仮にどこかの国が試みようとしても、十分な機器の調達は難しいだろう。それだけの設備を揃えるなら、マイニングで利益を上げることができ、リスクを冒す必要はない。