「ランニングの効果は体形や体力の維持より、むしろ脳に表れる」?…米ハーバード大教授を務めた学者も「有意義な発想浮かぶ」
「有意義な発想が浮かんだり、いい論文のタイトルを思い付いたりするのは、ほぼ例外なくランニングをしている時です」。昨年11月、科学や芸術の発展に貢献した人を表彰する国際賞「京都賞」を受賞したカナダの地質学者ポール・F・ホフマン博士(83)がそんな話をしてくれました。 【一目でわかる図表】脳に良い運動とは?
走ると脳が刺激を受け、アイデアが形になるのを感じるといいます。米ハーバード大の教授を務めていた50歳代の頃は研究室に専用のシャワー室を整備し、毎日走ってから研究仲間と議論を交わしていたそうです。
ウォーキングやランニングなどの有酸素運動と脳の働きの関係に詳しい関西福祉科学大の重森健太教授(47)に尋ねると、「ランニングの効果は体形や体力の維持などよりも、むしろ脳に表れる方が大きいですね」と説明してくれました。
重森さんによると、走ることで集中力や思考力、判断力などに関わる大脳の「前頭葉」と、記憶力に関わる「海馬」が特に活性化することが、近年の研究でわかってきました。脚の筋肉から脳へ届く信号が刺激となり、さらに脳の血流も改善され、海馬や前頭葉に酸素が行き渡るのだそうです。2011年に米国の研究チームが「適度な運動によって海馬の容積が大きくなる」と報告しました。
日本早期認知症学会の理事長でもある重森さんは「こうした研究成果により、運動が認知症の予防にも役立つことが広く知られるようになりました」と話します。60歳代、70歳代からでも運動を始めれば、認知症改善に有効です。
一方で、「過剰な運動をすると膝などを痛め、かえって動かなくなるので逆効果です」とも。理想的なのは「ややきつい」と感じる程度、50歳代なら心拍が1分に140前後の運動を30分以上、週3回行うのがベストだそうです。
「大切なのは続けることですが、それが一番難しい。普段あまり運動しない人は、まず15分、歩くことから始めてはどうでしょう」と重森さん。「タオルをぎゅっと握って歩く」「2本のつえを交互につきながら歩く」など、心臓に近い筋肉を使いながら歩くと効果的といいます。
ホフマンさんは80歳代になった今もアフリカへ地質調査に出かけるなど、精力的な活動を続けています。その秘密は日々のランニングに鍛えられた明晰(めいせき)な頭脳にあるのでしょう。(編集委員 今津博文)