「『罪を憎んで人を憎まず』は真理」 波乱万丈、自身も逮捕経験のある女性弁護士がうったえる「加害者」との向き合い方
●「日本の警察署や刑務所は、身体拘束に対するハードルが低い」
弁護士になって以降、多くの刑事事件も担当している。刑事事件に関わる中で、警察や刑務所など、国家権力による収容者への暴行問題にも目を向けている。その一つが「新宿留置場事件」だ。 2022年夏、警視庁・新宿署に留置されていた男性が、戒具(ベルト手錠と足用捕縄)で手首と腰、足首を拘束されて、パンツ一丁で保護房に入れられた。男性は、手首と腰にケガを負っただけでなく、用便をすることも認められず、垂れ流すことを余儀なくされた。 法を逸脱する処遇によって、自分に身体的・精神的苦痛を与えられたとして、東京都(警視庁・新宿署)を訴えた男性の弁護人・代理人をつとめる小竹さんは、事件直後、男性と同じ房の複数人に接見して聞き取りをおこなったという。 「人の記憶は時間とともに薄れるので、話を聴いてすぐに同房だった人にも接見しました。すでに勾留を解かれていた人も含めた同じ房の人だけでなく、保護房に入れられて、同じ目に遭った人の話を聞き、傷跡を目にできたことで、裏づけを取れたと思います」 精神障害がある43歳の男性を、新宿警察署と同じように戒具で拘束したまま、食べ物も水も与えず脱水で死なせてしまった岡崎警察署。刑務官が受刑者に暴行を繰り返していた名古屋刑務所。障害のある男性を虐待していた長野刑務所。こうした事件が相次いでいるように、収容者に対する暴行は、日本全国で起きている。 他者の目の入らない密室で人権侵害を繰り返す国家権力の態度について、小竹さんは「野蛮」という言葉で表現する。 「日本の警察署や刑務所は、身体拘束に対するハードルが低く、本当に野蛮です。原則と例外が逆転し、勾留が長期化する中で、戒具を用いた身体拘束、不必要な保護房への収容がおこなわれています。これは日本社会全体にもいえることで、精神病院をはじめ、人を閉じ込めることがいたるところで起きています」
●「厳罰主義を強化しても、良くなるとは思えない」
刑事事件の弁護人を引き受ける小竹さんの根幹にあるのは、学生時代に自身が逮捕されたときの経験だ。 「逮捕時、留置場で同じ房にいたのは自分と変わらない人たちでした。でも、留置担当官は私たちを『自分より一段低い、何をしでかすかわからない別種の人間』という扱いをするし、そうして良いと思っているんです。 そもそも犯罪はなぜ起きるのか。罪を犯した人に突き詰めて話を聞いて感じるのは、人は置かれた状況によって(犯罪に)追い込まれてしまうということです。加害者だけの責任にして厳罰主義を強化しても、良くなるとは思いません」 弁護士になった当初と今で、仕事への意識など変わったと思いますか――。 罪を犯した人が更生できるよう、彼・彼女たちと関わり続けてきた小竹さんにそう尋ねると、少し考えたあとにこんな答えが返ってきた。 「あまり変わっていない気がしますけど…ただ、ずっと、罪を犯した人と向き合い、その人の内面を深く掘り下げることをしてきたので、犯罪についての理解は深まった気がします。 語弊はあるかもしれませんが、そういう人たちを本当に悪い人と思ったことは一度もなく、『罪を憎んで人を憎まず』は真理だと思います。 相談を受けていて感じるのは、被害者だけでなく、加害者もまたトラウマを抱えているということです。再犯を防ぐには、ただ人を裁くだけでなく、犯罪を検証して、次につなげることが必要です。犯罪をどう扱うか。今後、社会も変わるべきだと思います」 【取材協力弁護士】 小竹広子(こたけ ひろこ)弁護士 1972年岡山県生まれ。東京都立大法科大学院を経て、2008年弁護士登録。産業カウンセラー、家族相談士、ゲシュタルト療法セラピスト。2016年に保護司登録。犯罪被害者と加害者の双方の支援、更生のための刑事弁護を旨に必要に応じてカウンセリングの手法を用いる。また、第二東京弁護士会で「よりそい弁護士制度」創設に関わり、刑を終えた人の社会復帰支援にも携わっている。 事務所名 :事務所:東京共同法律事務所 事務所URL:https://www.tokyokyodo-law.com/